第2子の妊娠・出産などで、上の子によく見られるのが「赤ちゃん返り」ですよね。手を焼いてしまう親も多い「赤ちゃん返り」について、 横浜市の認定NPO法人びーのびーのが運営する、ちいさなたね保育園の施設長・安江文子先生に聞きました。
「赤ちゃん返り」は、指しゃぶりやお漏らし、おねしょがまた始まり、一時的に赤ちゃんに戻ってしまった状態…というイメージがある人も多いのでしょう。でも、保育園で保育士が最初に「赤ちゃん返りかも?」と気づくのは「頻繁に泣くようになる」ということです。
「今まではこんなことでは泣かなかった子が急に泣くようになる」とか、「機嫌が悪くなる」、「やだやだやらない!」と言い出したりとか、今までそんなに甘えてこなかった子がひざに座ったり、だっこやおんぶをねだったりしてくる行動が増えます。
赤ちゃん返りは、必ずしも下の子が生まれるときだけとは限らず、子どもにとって環境が変わったり不安があるときに起こります。そのため、一人っ子でも赤ちゃん返りをする子もたくさんいますよ。
「なぜ赤ちゃん返りをしているのかな?」と思ったら、最近生活の変化がなかったかを思い浮かべてみてください。大人にとってはささいなことに思えても、子どものなかでは大きな変化が起こっているのかもしれません。
赤ちゃん返りの原因でよく知られているのは、下の子が生まれたとき。ほかにも主に「生活が変わるとき」という共通点があります。中にはこんなことで? と思うこともありますよ。 下の子の誕生以外で、よくあるケースを見ていきましょう。
家を引っ越すと、慣れた習慣や生活リズム、家具が変わり、子どもに動揺や不安が起こりやすくなりますよね。さらに引っ越し直後は、子どもは親が引っ越しの片付けに追われて、時間にも精神的にも余裕のない状況を敏感に感じ取ってしまうこともあるでしょう。
今まで親以外の人とやっと信頼関係を築いてきたと思ったら、進級によって新しい先生とまた一から関係を築かなければいけないことは子どもにとってはとても心の負担になることでもあり、不安なこと。
まずは親と新しい先生が信頼関係を築き、「この人はママ(パパ)と仲がいいから大丈夫そう」と安心感を持ってもらえるといいかもしれません。「前の先生がよかった」とか、いまの先生の嫌な点を子どもの前で話してしまうとますます子どもの不安は大きくなります。
進級直後は特に新しい先生と子どもとの関係がスムーズに深まるように、親が積極的に関わるようにしてあげましょう。
進級したことで、赤ちゃん返りを起こす子もいます。お気に入りの玩具、使い慣れた部屋から見える風景、そのすべてが変わってしまうのですから、混乱を起こす子もなかにはいます。
その場合は、先生に相談してみましょう。その子のお気に入りの玩具を少しだけ貸し借りしたり、少しの時間、前の保育室で過ごすことで混乱が収まることもあります。
家族の体調が悪いとき、家では赤ちゃん返りしていないのに保育園で起きていることがあります。いまママやパパにわがままを言ったら、困らせてしまう…。子どもはけなげにもちゃんと分かっています。
いつもはあまり甘えてこない子どもが保育園で保育士の膝に座ってきたり、おんぶをせがんだりすることも。保育士は、「いつもこんな風じゃないのにな」と思いつつ、子どもの気持ちをくみ取るよう努力します。あとでご家族の報告から、ご家族の体調が悪かったり、第2子の妊娠がわかることもよくあります。
赤ちゃん返りは環境が変わったからと、タイミングよく出るわけではありません。保育園の入園でも、初日からワンワン泣いている子もいれば、もうみんなが環境に慣れてしまったゴールデンウイーク明けからいきなり泣きだす子もいます。
それぞれの子どもで赤ちゃん返りする時期や理由も違います。みんなが同じ時期に出てくるわけではなく、その子が不安だと思って出したくなるタイミングと思って見守ってあげましょう。また、赤ちゃん返りの行動が出てないように見えて、実は出ていることもあり、程度の差もあることを知っておきたいところです。
「赤ちゃん返り」が起きるということは、子どもは胸に不安を抱えているということです。しかし、子どもは「私は今日体調が悪いです」とか「家族の具合が悪くて心配なんです」などと言葉で伝えることができませんよね。
「赤ちゃん返り」は、子どもが抱える不安を我慢せずに、体で表現し、困った感を伝えてくれている証拠。まずはそれを親が知っておきたいですね。
「叱らない」とはよく言いますが、親もイライラして、「なんでできないの」と言ってしまうこともあると思います。だけど、そんなときこそ、自分のお子さんを信じて待ってあげたいですね。
ただ甘えたくって、「ヤダー!」と言っているときは、「じゃあ、手伝ってって言ってみて」と、声をかけたりしています。「手伝って」と言えたら、手を貸してあげましょう。
大切なのは子どもが困ったときに「自分でヘルプサインを出せるようにする」ことです。できるだけ「一人でできるでしょ」とは言わないようにしたいですね。
保育園の場合は、保育士の膝に座ったり、おんぶをねだったりしたときは必ず一度は受け入れるようにしています。しばらくやってみて「もういい? じゃ、お仕事があるからね」と言って。それでもずっとくっついて離れない子には「あと10数えたら終わりね」と言って、時間を決めたりしています。
妊娠中の場合は抱っこがきつくなってきますよね。でも一緒に横になったり、背中や膝をくっつけるとか、子どもが肌のぬくもりを感じられればOK。保育園でもずっと保育士の太ももにくっついてる子もいます。時間の長さややり方じゃなくて、短くても一緒にいるよっというのが子どもに伝わることが大切です。
下の子が生まれて赤ちゃん返りをしている場合は、一緒にお世話をするのもいいでしょう。子どもとは不思議なもので、1才の子でも0才の子は「小さい子」と認めてわかりますから、ミルクに手を添えたり、おむつを取ってきてもらったりと、お手伝いを任せてみてください。
そういうときに、力の加減がわからず、赤ちゃんを泣かせてしまうことがあるかもしれません。でも子どもに悪気はありませんから叱らないであげてほしいですね。
園では、「そこはこういう風に優しくして」「手を触るときはそおーっとね」と、どんな風にお世話をしてほしいか伝えるように気をつけています。
子どもの赤ちゃん返りには、すぐに答えられないことも多いでしょう。そんなときには、
「今だけはこれやるね」 「ここまではやるね」 「一緒にやろうね」 「これが終わったら一緒にやろう」
など、見通しを立てて伝えてあげることが大切です。
また「あとでね」と伝えたら、約束を守ることがとても大事です。くり返し必ず「これ終わったら一緒にやるよ」って言ったら、必ずやってあげましょう。
くり返し伝え「大丈夫だよ。これ終わったら絶対やるよ」と伝えたら絶対守る、 このくり返しで、子どもは待つことができるようになります。
「赤ちゃん返り」の一番の対処法は、子どもと2人で過ごす時間をつくる事も大切ですが、「ママ(パパ)に時間と気持ちの余裕がある」ことがより大切です。
下の子が生まれて赤ちゃん返りをしている場合には、上の子の世話もしつつ、2人目の育児もするというのは、ママにとっては産後の体の変化もあったうえでの二重、三重の負担がかかります。余裕がない中で、赤ちゃん返りをしている子の対処をするのは難しいのは当然。
上の子と過ごす時間も大切だけれども、ママ(パパ)が一人になる時間、自分のケアをできる時間を持つことが大切です。そのほうが赤ちゃん返りしている上の子にとっても優しいママパパと接することができますよね。そのためにはどうすればいいのか3つほど解決策を考えてみました。
赤ちゃん返りに一番必要なことは「1日に、ママが1人になる時間を30分でも1時間でもいいから作る」こと。 乳幼児はまだ何が自分にとって危険かわかっていません。ママ(パパ)のいない間にスマホを見たり、ゲームをしているうちに子どもがイスから転落してケガをしたり、誤飲をしてしまったりして大事件になったりしないようにくれぐれもきをつけましょう。
育児に悩む親たちの一番苦しいところは、行政の育児サポートやサービスが充実していても、子どもを連れて自分が申し込みに外へ出て行かなくてはいけないこと。赤ちゃん返りを起こしている上の子を連れ、赤ちゃんを連れて外出…。考えただけでもう疲れてしまいますよね。
通常、新生児がいるご家庭には市区町村から保健師が家庭訪問にやってきてくれますよね。この時がチャンスです。普通なら赤ちゃんの相談をそこでするわけですが、「いま上の子がこんな感じなんです」と、相談してももちろんOK。アドバイスや「こういうサービスがあるよ」と、手を差し伸べ、教えてくれると思います。
一般的にママがメインで育児をすることが多く、「仕事から帰宅してから子どもをどうしても30分、1時間もみていられない」というパパもいるかもしれません。その場合は、ネットで調べてベビーシッターや産後ヘルパー、あとはファミリーサポートなど、受けられる子育て支援サービスのリサーチや予約を担当するだけでも、ママの負担は大きく違ってきます。
下の子が生まれるときや、不安なときに起こりやす赤ちゃん返り。実際に経験したママたちの声を紹介します。
・子どもが5歳のころ、保育園の入園にともなって、わがままやすぐ泣くという赤ちゃん返りがありました。とにかく一緒に過ごす時間を増やしながら時が過ぎるのを待って解決しました。(4歳女の子・9歳の男の子のママ)
・下の子が生まれると、当時3歳だった上の子がしきりに抱っこを求めたり、下の子を抱っこしていると怒る、下の子を払いのける…など激しい赤ちゃん返りが…。
寂しい思いをさせていることはわかっていたので、呼ばれたらなるべくすぐに反応するようにして自然と解決していきました。(5歳男の子・2歳女の子・0歳女の子のママ)
・2歳半で下の子が生まれたあと、上の子のトイレトレーニングが振り出しに戻りました…。
仕方ないと思い中断し、「3歳になったらおむつを取ろうね」とだけ言い聞かせていました。3歳で理解も進んだのか、そのとおり3歳の誕生日に突然トイトレに成功しました!(9歳女の子・6歳男の子のママ)
どのママも子どもが大きくなっても、よくエピソードを覚えているあたり、つらい思いをしながらも乗り越えてきた思い出がわかりますね。
***
赤ちゃん返りはマイナスのイメージがありますが、自分の困った状況を言葉で表現できない子どもにとって、困ったときのヘルプサインを出す練習期間と考えると、成長過程のひとつともいえますね。
対処がつらいと感じたら、それはママやパパの余裕が必要なとき。子どもの対応ばかりに気をとらわれずに、自分自身のケアをしていきたいですね。
ちいさなたね保育園・施設長 安江文子
横浜市で子育て支援を行うNPO法人びーのびーので、子育て広場などの勤務を経たのち、2015年より保育園「ちいさなたね保育園」で園長(施設長)を務めています。子どもへの温かなまなざしを持ったアドバイスが魅力です。
ライター&子ども研究家 木下美紀
独学でプログラマーとして就職。その後編集者として出版社13年在職。人が生まれどう発達するかに興味を持ち、保育園で働きつつ保育士試験合格。学童保育スタッフ兼小学生向けプログラミング講師を経て、現在に至る。