おおらかな子育ての象徴でもある「放任主義」。放任主義とは、子どもの主体性を尊重する子育て方法のひとつで、ネグレクトやほったらかしとはまったく異なります。
放任主義の意味やメリット、ほったらかしにならない放任主義のコツは何でしょうか。保育士ライターが解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
放任主義とは、子ども自身で考えて行動することを見守る教育方針のことです。自由に選択することが許されているので、自主性や主体性がはぐくまれます。
具体的な放任主義のあり方は、以下の通りです。
放任主義と勘違いされやすいものとして、ネグレクト(育児放棄)やほったらかしが挙げられます。ネグレクトとは、身体的虐待・性的虐待・心理的虐待とならぶ虐待の1種です。
子どもは、社会のルールや危ないことをまだ十分に理解し判断することができません。放任主義のつもりですべてを子どもに選ばせていては、間違いや危険が伴うこともあります。
放任主義がネグレクトと異なる点は、最低限の範囲のなかで子どもが自由に選択できる状態をつくっていることです。例えば、ネグレクトには以下のような行動があります。
子どもの選択とはいえ、あくまでも責任の所在は親。放任主義は子どもに無関心になるのではなく、子どもが自由に考えられる余白を提示し、見守るイメージです。
放任主義の育児をする親の特徴と、ほったらかし育児をする親の特徴を比較してみましょう。大きな違いは考えの主体が子どもにあるのかどうかという点です。
放任主義を行うためには、子どもが自分で考えたり挑戦したりできる環境が整っていなければなりません。放任主義においては、教育環境を大切にしていることが多いようです。
また、自分で行動して学びを深める喜びを親自身が知っていて、子どもに指示せずとも自然と背中で伝えている場合も多くあります。
最低限のルールや安全面に関する助言は必要ですが、子どもを信頼して選択をゆだねるのが放任主義。つい言いたくなることも我慢し、子どもを見守る姿勢があるのも特徴的です。
子どもが主体的に行動できる環境を整えて見守る放任主義と異なり、単に親の都合で行動した結果として子どもに構っていないだけである点が特徴的です。
自主性をはぐくむ放任主義には、メリットとともにデメリットもあります。両者を理解して、わが子に合う教育方針か見極めたり、取り入れ方に工夫したりしましょう。
危険なことや倫理に反することでなければ自分の判断を否定されないので、自分の意見を尊重される経験が自己肯定感を高めます。
整えられた環境のなかでのびのびと過ごすことで、学びを自由に深められるのも大きなメリット。疑問に思ったことは自分でどんどん調べ、知的好奇心を満たしていくでしょう。
自分の考えを否定されずに受け入れてもらえる経験が積み重なると、相手の意見を受け入れようとする姿勢にもつながっていきます。
自由は、時に不安ももたらします。間違えてはいけないという意識や、完璧にしたい気持ちが強い子どもには、自由に考えて行動できる環境がプレッシャーになることもあります。
子どもの気持ちを無視して突き放すのは放任主義ではありません。不安そうな様子なら、寄り添っていっしょに考えたり、考え方の例とその根拠を伝えたりしましょう。
公園や電車など制約のある環境や、時間が限られている場面もありますよね。子どもに十分に考える時間を与えられなかった場合は、あとから子どもにフォローを入れましょう。
ネグレクトやほったらかし育児にならないためには、具体的にどのような関わり方を意識すれば良いのでしょうか。ポイントとなるコツを紹介します。
自分で考えて行動していいと言っても、最低限の枠組みは必要。社会で生きるために必要な相手への思いやりやルールを知らずに自分勝手に行動するのはただのわがままです。
社会のルールは、自分を含めたすべての人を守るものです。ルールのもとでのみ自由な選択が可能であることを、幼いうちにしっかり伝えておきましょう。
危険に関する知識もまだ乏しいのが子どもです。物の適切な扱い方や交通ルールなどは、繰り返していねいに伝えていきましょう。
すべての基礎は健康な身体です。身体が大きく成長していく大切な時期だからこそ、生活リズムを整えて健康的に過ごせるようにしましょう。
夜更かしや偏食など、子どもが自分の好きなように生活することを許すのは放任主義ではありません。健康の大切さを知っている大人が、きちんと教える必要があります。
また、生活習慣を身に着けるためのサポートも重要です。生きるために必要なこととして、「自分で考えて行動する」ための基盤づくりをしっかり行いましょう。
保育の現場でも、もっとも大切なことは環境設定だと言われています。
やりたいと思った時にパズルや縄跳びをすぐ手に取れる環境に整えたり、定期的に本棚の中身を変えて知的好奇心を刺激したりすることで子どもの意欲は高まります。
ただし、与えられた物の用途や使い方が分からなければ子どもは戸惑うだけです。鉛筆の持ち方やハサミの使い方などを知ってはじめて工作が楽しめます。
環境を整えることはとても大切なことですが、物を与えるだけで終わりにならないようにしましょう。
危険なことや社会のルールに反することをした際は「これはいけないことだ」と知らせる必要があります。子どもの勝手な行動だからと放置していてはいつまでも分別がつきません。
叱るときのポイントは、必ず理由を説明すること。頭ごなしに否定されると、子どもはなぜ叱られているのか分からずに同じことを繰り返してしまいます。
たとえば、友だちの玩具を勝手に取ったときには「〇〇ちゃんが嫌な気持ちになるから」「〇〇ちゃんに貸してと言わずに取ったから」と説明してみましょう。
理由が分かるので、相手が嫌な気持ちになることは避け、欲しいときには貸してほしいと伝えよう、と思えますよね。理由を理解することは、本質を理解することでもあるのです。
放任主義は、子どもに関心を持たないことでも、無視することでもありません。根底にあるのは、子どもへの深い愛に裏付けられた信頼。子どもの話にはたっぷり耳を傾けましょう。
「そんなふうに考えたんだね」「面白い決め方だね」と受け答えるのもいいですね。自分の考え方や判断を認められると、子どもはどんどん自分で考えることが楽しくなります。
「どうしてそう考えたの?」と尋ねてみるのもいいでしょう。自分の選択の根拠に意識的になれるので、自分で考える力がさらに伸びていくでしょう。
子どもが自分で考えて行動していると、難しいことや分からないことにも当然出会います。壁にぶつかったときには、助けを求めることも教えましょう。
放任主義はネグレクトやほったらかしとは異なるので、助けを求められたら全力でサポートします。
助けを求められたらすべて大人が解決するのではなく、困った気持ちに寄り添い、乗り越える方法をいっしょに考えていきましょう。
子どもを1人ぼっちにするのではなく、ときにヒントや助け舟を出しながら、自分で乗り越える経験をさりげなくサポートするイメージです。
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言葉だけではマイナスのイメージを持たれやすい放任主義。適切に行えば、子どもの自主性をはぐくむ方法として効果的な教育方針です。
適切な放任主義を行うコツを意識しながら、大人の都合ではなく子どもの育ちにねらいを持って行ってみてください。
ライター・保育士 Akari
0・1歳の子どもたちと笑い合い、3・4・5歳の子どもたちと語り合ってきた保育士経験を持つWebライター。おやこ生活に役立つ記事を発信していきたいと思います。コスメライターの資格取得を機に執筆を始めたので、美容Webサイトを中心に執筆中。