いま日本で話題になっているSTEAM(スティーム)教育。STEAM教育とは、2000年代にアメリカで始まった理数系の教育に創造性教育を加えた教育モデルのこと。STEAMとは科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語です。
AI時代が加速するこれからの未来は、「正解のある問いを与えられて解に答えていく」のではなく、「自ら問いを生み出して自らその問をスピーディーに解いていくことが重要」になっていきます。
そのために必要なのがこの3つの力。
これらの力を身につけることができる、相互に関係しあう分野横断的な「実社会と結びついた学び」がSTEAM教育です。
このSTEAM教育、親世代が子どものころにはなかった概念なので、少しハードルが高く感じるという声や、STEAM教育が語られるときに出てくる言葉が難しいという声も。
そこで、知っておくとよりSTEAM教育について深く理解できるキーワードをピックアップし、わかりやすく解説します。
日本でのSTEAM教育の取り組みが語られるときに出てくるのが、経済産業省の「未来の教室」プロジェクトです。AI時代が加速し、ますます複雑化するこれからの経済、産業においては、新しい価値を生み出す人材、イノベーションを起こす人材が必要不可欠。そんな人材育成を進めるため経済産業省が教育分野に取り組んでいるのです。
令和の教育改革では、これまでの日本の過去の成功体験にとらわれず、時代の変化に合わせた新しい学びの社会システム構築が不可欠とされ、2018年に新たな教育プログラムの開発等に向けた実証事業を開始しました。
このプロジェクトでは、ビジョンとして以下の3本の柱が掲げられ、それぞれについて課題認識と実現のためのアクションが進められています。
Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた造語。
教育現場にテクノロジーを入れてイノベーションを起こしていくその動きやサービスをさす総称で、学校現場のICT化(*1)が進むにつれて、注目されてきた言葉です。
*1 )ICTとは情報通信技術のこと。ITの力を使って学校の教育の現場を便利に豊かに変えていくこと。
経産省の「未来の教室」をけん引しているのはこのEdTech。EdTechを教育現場に導入することで、たとえば英語、数学、理科、社会などのいわゆる"知識"習得の時間をこれまでより劇的に短時間で行うことができるようになり、その空いた時間で、探究学習やプロジェクト型学習(※後に説明)に取り組むことができるようになるのがメリットです。
単に時間短縮ということではなく、効率的な学習を叶えるための手段というところがポイントになります。
学習指導要領とは文部科学省が定める教育課程(カリキュラム)で、それをもとに子どもたちの教科書や時間割が作られるいわば"学びの地図"。およそ10年ごとに時代の変化に合わせて改訂されていて、2017年、2018年にも学習指導要領の改訂が公示されました。重視されたのは、何を学ぶかだけではなく、どのように学ぶか。子どもたちの生きる力を確実に育むことを目指しています。
それを受けて、小学校で2020年度から、中学校では2021年度から、高等学校では2022年度から新しい学習指導要領の下での学びが始まります。
今回の改訂では新しい時代を生きる子どもたちに必要な3本の柱が掲げられ、すべての教科でこの柱に基づく学びを後押しできることを目的にされています。
その3本の柱とは
また、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング※後に説明)の視点から、何を学ぶかだけでなくどのように学ぶかを重要視した内容になっています。
新設・変更されたのは主に以下の点。
【小学校】
【中学校】
【高等学校】
従来型の、先生が生徒に対して一方的に講義をする受動的な学びとは逆の、子どもたちが積極的に授業に参加できる能動的な学びのこと。つまりアクティブなのは子どもたちの頭の中であり、自ら学ぶ力を身につけていける学習方法のこと。
多くは「主体的・対話的で深い学び」と説明されます。
文部科学省による2017年・2018年公示の新学習指導要領でも、未来を生きる子どもたちに大切なのは「何を学ぶか」だけではなく「何ができるようになるか」であり、そのために「どのように学ぶか」が大切とされ、時代に合った新たな学習法とされ推奨されています。
それはただ議論したり、発表したりするということではなく、
「探究学習」「プロジェクト型学習」は「アクティブ・ラーニング」の教育法のひとつとして捉えられます。
自ら学び、自ら考える力を育てる学習方法のこと。
やってみたいことのテーマを自分自身で見つけ、その解決に向けて情報を集め、整理・分析をしたり、周りと意見交換・協同しながら進めていく"学ぶ側が主体"となる教育。
小中学校では「総合的な学習の時間」の科目で、高等学校では「総合的な探究の時間」(2022年より名称変更)の科目でこの探究学習を導入した授業が行われています。
また、2017年、2018年の学習指導要領の改訂でもっとも力が入れられたのが、この「探究」ともいわれています。
探究のテーマは自由ですが、よく取り上げられるテーマとしては、職業、国際理解、環境や福祉、伝統文化などがあります。
Project Based Learningのことで、PBLと略されます。日本語では課題解決プロジェクト型学習、問題解決型学習などと呼ばれることも。
先生が生徒に知識の前に問題を与え、その問題を解決していく過程で必要な科目を学んでいく学習法のこと。与えられたプロジェクト課題に向けてどう解決していくのかを考え、必要なことを自ら学び、獲得した知識を問題に応用する、という流れで進んでいきます。
正しい答えにたどり着くことが大切なのではなく、重視されるのはそれまでのプロセス。先生はあくまで生徒のサポートをする立場で進めていく学習です。
プロジェクト型学習には以下の2つの手法があります。
社会に出てから必要なPDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Act:改善)の考えも身に付き、まさに社会で求められている能力を、実践的に学ぶことができる教育法です。
時代の変化とともに、社会で求められる能力は変わっていくのが当然、そしてその能力のために必要な教育も変わっていきます。
いまの子どもたちが社会に出るころには、AIの台頭により現時点では"あることが当然"の職業が無くなっていたり、想像もできないような職業が新たに多く生まれていることが想定されます。そんな社会の変化に適応して、これからのグローバル社会を生き抜いていくために、若い世代が求められる能力、これからを生きる子どもたちに培うべき能力が「21世型スキル」という考え方。その能力を持ち合わせ、社会で求められていくのが21世紀型スキル人材です。
アメリカやオーストラリアなど世界6か国の政府や教育・産業界が協働する国際団体「ATC21s」(The Assessment and Teaching of 21st-Century Skills)が提唱する概念であり、21世紀型スキルとして挙げられる能力は以下の4つのカテゴリーに分けられると定義されています。
「21世紀型スキル」として必要とされている能力のひとつが「情報活用能力」。課題や問題を解決するための手段として必要不可欠な能力です。
生まれたときから、スマートフォンやタブレットが身近にあり、インターネットで欲しい商品がすぐ届いたり、動画の視聴やオンラインゲームが当たり前の子どもたち世代。
予測が難しいこれからの社会を生きていく彼らには、これまで以上に、膨大な情報の中から何が重要かを自分で考え、見出した情報を活用して他者と協働し、新たな価値を創造していくこと…つまり「情報活用能力」が不可欠です。そして、ICTをはじめ進化し続けるさまざまな情報技術を使いこなしていかねばなりません。
文部科学省は2017年、2018年年公示の小学校、中学校、高等学校の新学習指導要領で、「学習の基盤となる資質・能力」のひとつとして情報活用能力を挙げました。
ここでいう情報とは、コンピュータを介して得られる情報だけではなく、新聞、テレビ、書籍などから得られる情報、人との会話やインタビューから得られる情報も含む、ありとあらゆる情報のことです。
情報活用能力をより具体的に捉えれば,学習活動において必要に応じてコンピュータ等の情報手段を適切に用いて情報を得たり,情報を整理・比較したり,得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり、必要に応じて保存・共有したりといったことができる力であり、さらに、このような学習活動を遂行する上で必要となる情報手段の基本的な操作の習得や、プログラミング的思考、情報モラル、情報セキュリティ、統計等に関する資質・能力等も含むものである。
出典:【総則編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 P50-51より
具体的には
情報活用能力のひとつとして挙げられた「プログラミング的思考」。
コンピュータやプログラミングの概念に基づいた問題解決型の思考のことで、簡単にいうと、自分が意図するゴールに向けてどのようなプロセスを設定して進めていけばいいかを論理的に考えていく力です。
この思考能力は、社会におけるさまざまな問題解決にも応用でき、将来どんな職業に就いたとしても時代を超えて普遍的に求められる力です。
自分が意図する一連の活動を実現させるために、必要な動きを分解して、どのように組み合わせるとより効率的に意図した活動が実現できるのかを論理的に考えていきます。
2020年度から小学校ではプログラミング的思考の育成を目的に、プログラミング教育が必修化されました。
子どもたちは、各科目でコンピュータに意図した処理を行うように指示できることを体験しながら、知識や技能、思考力、判断力、表現力、学びに向かう力や人間性などの育成を目指しています。
そして最後に、文部科学省が中心となり推し進めている「GIGAスクール構想」について。「GIGA」や「1人1台PC」という言葉を、なんとなく聞いたことがあるという親御さんも多いはず。
GIGA(ギガ)は「Global and Innovation Gateway for All」の略。
Society 5.0 時代(*2)に生きる子どもたちにとって、PC 端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムであり、1人1台端末環境は、もはや令和の時代における学校の「スタンダード」。それを推進していくこと(1人1台PC+高速ネットワークの整備)がGIGAスクール構想です。
これから、実践と ICTのベストミックスを図っていくことで、学校教育は劇的に変わっていきます。また、ICT 環境の整備はあくまで「手段」であり、整備が始まったあとは、今後「活用」にフェーズが移ります。
「子どもたちが変化を前向きに受け止め、豊かな創造性を備え、持続可能な社会の創り手として、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成していくことが必要である」と、文部科学大臣の萩生田氏も語っています。
こうした環境整備は、前述した単語のほぼ全てに関わってくる重要な土台でもあります。通常の社会では当たり前となり、もはやないと生活できないレベルとなったICT。これが学校現場でも日常的なものになり、子どもたちの学びの可能性がさらに広がっていくことがとても大切です。
*2)Society 5.0 時代とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの。AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどの革新技術を社会や産業に取り入れることにより実現する未来社会。
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いま知っておきたい教育に関するキーワードを紹介しました。
見慣れない言葉だと一見難しそうに感じますが、内容はどれも密接に関連しあい共通することが多いもの。これからの時代、どのような能力が必要で、それに必要な学びは何か…と考えると理解しやすいです。
新しい時代を生きる子どもたちの新しい学びを、見守っていきたいですね。
取材協力/STEAM JAPAN
参考資料/
新しい学習指導要領「生きる力」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm
情報活用能力について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/06/15/1322132_3_1.pdf
未来の教室LEARNING INOVATION(経済産業省)
https://www.learning-innovation.go.jp/
GIGAスクール構想について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_syoto01_000003278_03.pdf
STEAM JAPAN 編集長 井上 祐巳梨
株式会社Barbara Pool 代表取締役 クリエイティブプロデューサー / 一般社団法人STEAM JAPAN 代表理事
クリエイティブプロデューサーとして、地域×クリエイティブ/STEAMをテーマに全国各地で地域創生プロジェクトに携わる。
2019年、STEAM事業部を立ち上げ、WEBメディア「STEAM JAPAN」の編集長に就任。同時期に、経済産業省『「未来の教室」実証事業』に採択。2020年、一般社団法人STEAM JAPAN設立、代表理事に就任。