2年間にわたって野澤俊索さんに幼児期の子育てについて教えていただいたこの連載は今回で最終回。
子育てしていると、ときにわが子にどう寄り添ったらいいのか、悩むこともありますよね。私たち親は子育てで何を大切にすべきなのか。野澤さんからすべてのママ・パパたちに向けたメッセージです。
お腹の中で、ゆっくりゆっくりと育ってきた子どもたち。
みんな、ゆっくりと、でも確実に体をつくってきました。日一日と細胞が分裂して成長すると、五感の中ではまず耳が聞こえるようになるといいます。赤ちゃんはお腹の中で、お母さんの心音や血の流れる音を聞いているようです。
お腹の中で過ごす子どもたちは、自然の流れに身を任せながらすくすく育っていきます。胎児である一年足らずの間、おうちの人の心配や期待は大きく揺れて、一喜一憂、一進一退の波のようですが、当の本人はのんびりとお腹の中を楽しんでいるのでしょう。子どもたちは、子どもたちの時間を、子どもたちのペースで大きくなってきたのです。 そして、産まれる。
産まれた子どもがはじめて泣いたとき、親もうれし涙で心震えたことだと思います。泣く、ということがそれほどうれしいと感じたことはないのではないでしょうか。そこから成長すると感情が動いて、泣いたり怒ったり、悲しんだり喜んだりを繰り返す子どもたち。
でも一番初め、泣くことは、生きていることそのものでした。
そして、生きていく。
お母さんのお腹から出たら、赤ちゃんは自分で息をしないといけません。ミルクを飲んだり、体を動かしたりしなければいけません。
しなければいけないのだけど、いや、ちょっと待ってください。その時、赤ちゃんは苦しんでいるでしょうか。
健康に産まれた赤ちゃんならば、きっと一生懸命にそれをして、そのたびにきっと喜んでいるのではないでしょうか。そして信頼できる大人に抱かれ安心して眠るときの顔は、生きるということの喜びに満ちているように思います。
子どもたちの人生は、この世に生まれてきたことを、とても嬉しく思うのが始まりなのです。
「生きる」という言葉を使うとき、私はいつもある子どものことを思い出します。
今から数年前、私のようちえんに通っていた元気な男の子が、突然の病に命をおとすという悲しい出来事がありました。
冬のある日、その病は見つかりました。そこから一年強。家族の看護の中で闘病し、また冬の日に眠るように空に旅立って行ったその子の姿は、今でもいつでも目の前にいるように感じています。
その一年の間、その子が教えてくれたのは、生きるということがどの子にとっても当たり前の自然なことで、だから子どもたちはどんな時でも生きることに前向きなのだということでした。その子は苦しいだろうときでも、遊ぶことや笑うことを忘れず、私に”生きるということはこういうことだ”と教えてくれたのでした。
子どもが今生きているという当たり前の毎日は、どれほど幸せなことでしょう。繰り返される日常が、またいつもの朝がやってくることが、どれだけ幸せなことなのかと感じています。
お腹の中であんなに心配されて育った子どもが、今ここにいるということは、どんなに尊いことなのでしょう。産まれてきた子どもが、そのまままっすぐ育つということは、生きることの喜びを失わずに大人になっていくことです。
産まれてきてよかった!生きていて楽しい!そう感じて生きるすべての子どもたちが、いつまでも変わらずに大人になってほしいと願います。
子育てを、ぜひもっとゆっくりしてみましょう。
人の数だけいろんな子どもがいて、それぞれみんな違うのです。発達や性格や、好みやこだわり…いろんなことが気になることもあるでしょう。
それでも、子どもたちは、自分の力で成長していきます。みんな、お腹の中からそうしてきたのですから。
その子どもたちの力を信じて、産まれてきたまんま、まっすぐ大きくなれるようにゆっくりとその成長を見守ってほしいと思います。
こんな風になってほしい、という願いは親ならだれでも持つものです。でも、その子は、その子にしかなりません。その子にとって一番幸せなのは、無理をせず自分らしくいることそのものを認めてもらい、自分らしく生きていけることです。
子どもの幸せを願うすべての大人が、子どものありのままを許し、そのままでいい、まっすぐに育ってほしいと見守るまなざしを持ってほしいと思います。
子どもたちが安心して笑っている世界を、子どもたちは産まれたときに夢見たのです。それを夢ではなく、現実にするのは、私たち大人の役目です。
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これまでの連載はこちら!
▶のんたん先生教えて!子育ての気になる…どうすべき?
43回にわたり、ご愛読いただきありがとうございました。
*写真はイメージです
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。
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