子ども同士や大人と子どものやり取りで、小さな子は思い通りにならないことがあると、泣いて訴えることがありますよね。泣いてしまうと話が続けられなくなり、そんな姿に大人もついイライラしてしまうことも…。そんなとき、子どもにどのように接したらよいのでしょうか。
「森のようちえん さんぽみち」園長の野澤俊策さんに、泣いたり怒ったりして要求を通そうとするわが子への寄り添い方を教えてもらいます。
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ある日の園でのこと。おさんぽの帰り道、5歳の女の子が、3歳の男の子に向かって一生懸命話しかけていました。その語気はとても強くて、女の子は怒っている様子。「どうして?!」「もう!!」といろいろな言葉で怒りをぶつけています。男の子はうわの空で、しだいに返事もしなくなっていきました。
しばらくすると、今度は「うわーん!」と大きな泣き声が。女の子が今度は、泣きの訴えに変わっていったのです。
思い通りにならないことがあると、子どもたちは怒ったり泣いたりします。素直な感情がそのまま表に出ているだけで、それ自体に大きな問題はありません。子どもたちはまだ幼いため、感情を乗り越えて気持ちを表現したり、相手に伝えたり、うまくいくまでじっくりと取り組んだりすることが難しいだけです。
その子どもの素直な感情の波に、大人が飲み込まれてしまうことがあります。その怒りや泣き声に同調してしまうと、大人もイライラしたり不安になったりしてしまいます。そこで一緒に怒ったり、悲しんだりして大人も感情的になってしまうと、事はどうもうまくいきませんね。
素直な感情の露出は、無邪気な子どもらしさのひとつと捉えて、大人は泰然自若(たいぜんじじゃく/落ち着いて動じないこと)としているのがいいと思います。そういう大人の感情のコントロールを子どもに見せることで、いいモデルになることができるからです。
先ほどの女の子は、しばらく泣き続けました。周りにお友だちが寄ってきて、どうしたの?と話しかけるたびに大きな声で泣くので、「今はお話できないみたいだから、ちょっと待ってね」と伝えました。そのうち、ようやく泣き止むことができたので、ゆっくりと聞きました。
「どうして泣いていたの?」
「あのこと、てをつなぎたかったのに、きいてくれないの」
どうやら、ただ手をつなぎたかっただけみたいです。
「じゃあ、一緒にいてあげるから、もう一度言ってみる?」と聞くと、うん、と返事をしたので男の子も呼んでもう一度お話をしました。
女の子がゆっくりと落ち着いて、「てをつなぎたいよ」と伝えると、男の子も「いいよ」と言って手をつないでくれました。その瞬間、女の子の顔はパッと晴れてにこやかになりました。そこから帰りの会まで二人は手をつないで帰っていきました。
子どもたちにとって、自分の思い通りにならないことは日常生活でたくさん起こります。その時に感情のままに怒ったり、泣いたりしても、思い通りにはいきません。それを経験的に知った上で、"ではどうしたらいいか"を経験することが成長につながります。その時に大人は、子どもの感情に流されず、冷静にゆったりと対応すると良いと思います。
子どもたちが泣いて要求を通そうとするときは、落ち着いて聞きに徹すると良いと思います。すぐに要求を通してしまうと、"方法としての泣き"になってしまうことがあります。
小さなことですぐに泣くなど、泣くことで気をひこうとするときは、笑っている時や頑張っている時にたくさん構ってあげるとよいと思います。子どもは我慢できたり、泣き止んだり、その時の方が泣いている時よりもよっぽどたくさん気をひけると分かり、前向きになれるのです。
思い通りにいかなくて泣く子には、物事を受け入れるまで少し時間をあげましょう。気持ちの露出として泣くということも一つの手です。そうして涙で流して、落ち着いてからもう一度、その物事に向き合うことを一緒にしていきましょう。
泣くということは感情の波です。それだけ豊かに心が動き、繊細な気持ちがあったり、感受性を働かせていたりすると言えます。そうした心の揺れは、健全な心の発達を促してくれるものでもありますから、悪いものではありません。
しかし泣いても、相手に気持ちは伝わりません。親ならばくみ取れることも、社会に出るとそうはいきません。自分の気持ちを自分で伝えることを学ぶチャンスだと捉えて、一緒に、気持ちを言葉にしたり、気持ちをコントロールしたりすることに取り組んでみましょう。
先ほどの女の子。
「怒ったら気持ちは伝わった?」「ううん…」
「泣いたら上手くいった?」「ううん…」
「怒っても、泣いても、上手くいかなかったよね。でもがんばってゆっくりとお話したらどうだった?」
「手をつなげた」
「そうか、よかったね」
怒っても、泣いても伝わらなかったことが、落ち着いてお話したらすんなりと伝わった。たったこれだけのことですが、子どもにとってはとっても大きな経験になります。
大人にとっては小さなことでも、子どもにとっては大きな階段なのです。 それをひとつひとつ丁寧に登っていく手助けをしてあげるとよいと思います。
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。
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