赤ちゃんがママの姿を求めて後追いしては泣いたり、同じ年齢の子どもの集まりなどでは母親の後ろに隠れてなかなか遊びに参加できないなど、ママと離れることに子どもが不安を覚えることを「母子分離不安」と言います。
これは、ママが子どもの愛情の対象であり順調な発達のひとつの姿で、誰もが経験することです。でももうすぐ幼稚園へ入園するのに、ママやパパにべったりだったり、小学校へ入学してもまだ続いているとしたら、少し心配になりますね。
「母子分離不安」とはどのようなことをいうのか、また、原因や適切な対応についてを、保育士ライターの炭本まみが解説します。
母子分離不安とは、子どもと愛情を感じ合い親密な関係にある保護者に対して、少しでも離れることで子どもが不安を抱えることを言います。母親とは限らず、父親や養育している大人に対して起きる現象です。
赤ちゃんの頃であれば、お手洗いやキッチンに行くだけでも泣いたり後追いをしてくるため、大人も大変動きにくく自分の行動が制限されるようで、つらい思いをしてしまいます。
子どもにとっては自分を大切にしてくれる大人の姿が見えなくなったり離れることは、大人の考える以上に不安な気持ちになっていることでしょう。
ですが、これは誰もが成長する上で通る道であり、2歳を過ぎた頃から少し先の見通しが立てられるようになったり、保護者を信頼できるようになったりし、落ち着いていきます。
ただし、中には幼稚園の入園前や小学校の入学前後になってから母子分離不安になる子どももいます。
同年代の子どもの中に入って行けず母親の後ろに隠れたり、抱っこをねだったり、離れなければならないときは、泣いたり体調不良を訴えたりすることもあるでしょう。
保護者から離れるとき、姿が見えなくなったとき、子どもはどのような行動で不安を示すのでしょうか。
赤ちゃんの頃、3歳前まで、3歳過ぎた頃の3つの年代に分けて詳しく様子を紹介します。
生後8か月から9か月頃になると、特にママに対しての愛着が強くなり、母子分離不安の様子が見られる子どもがほとんどです。どのような特徴や具体的な様子があるのでしょうか。
赤ちゃんは早ければ生後6か月から7か月から、平均すると9か月頃から母子分離不安が始まり、1歳半頃までがピークになります。
これは赤ちゃんであっても母親を信頼できる人であり、赤ちゃんがママに愛情を示している証であり、情緒が成長発達している姿なので心配することはありません。
ママはいつも大変な思いをしますし、赤ちゃんから離れられなくて心身ともに疲れを覚える辛い時期になるでしょう。赤ちゃんはママの姿が見えなくてもすぐに戻ってくるなど、まだ具体的で短期的な見通しを持てないため不安を抱きます。
「トイレに行ってくるよ。すぐに戻ってくるからね。」など目を見て声をかけてから離れる、離れても離れた場所から声をかけて存在を伝えるなどするうちに、少しずつ慣れて後追いしたり泣いたりすることが減っていきます。
ほとんどの子どもが2歳半くらいから母子分離を始めます。ママがそばにいてもママの存在を忘れて遊びに没頭したり、友達との遊びや一人遊びが楽しくて集中できるようになります。
また、「もう帰るよ、ママ先に帰っちゃうからね。」と言っても、追いかけてこなくなることも。ママやパパとの信頼関係や愛着がしっかりと子どもの中でも確固とされているからこそ、安心して親元から離れて遊べるようになるのです。
それでは、3歳になるのに母子分離不安を抱えたままの子どもはどのような特徴があるのでしょうか。
少しずつママ・パパと他人との違いを意識したり、新しい場所や経験のないことに対して警戒します。人見知りや場所見知りと言われる様子です。知らない人や慣れていない人に話しかけられても無言だったり、泣き出したりすることもあるでしょう。
また、新しい公園や知らない場所へ出かけると固まってしまったりママから離れようとせず、遊びを楽しめない子どももいます。
時間と共に慣れて少しずつママから離れ知らない人にも慣れれば話したり遊べるようになる子どももいますが、時間が解決することなく過ぎていく子どももいます。
3歳を過ぎた幼児期から小学生の学童期になっても母子分離不安が収まらなかったり、今までなんでもなかったのに急に不安を示す子どももいます。
3歳の頃は保育園や幼稚園の入園を迎える時期です。子どもの生活環境が大きく変わるとき、不安な気持ちを示す方法として母子分離不安が見られることがあります。小学校入学の際も同様です。
知らない世界や新しい環境で先の見通しが立てられないことは、ママ・パパと離れることへの不安や気持ちや行動が現れることもあります。
生後8か月頃から見られる母子分離不安は、ママ・パパの姿が見えなくなることで、いなくなってしまったととらえて不安になるのは見通しや判断がまだできない赤ちゃんにとっては一大事でしょう。また、ママ・パパとほかの人との違いを認識し記憶力が成長してきているため、不安を感じるものです。これは正常な成長段階と言えるでしょう。
赤ちゃんの時期を脱し3歳くらいになる頃の母子分離不安は、入園や引越しなどの環境や生活リズムの変化に不安になることが原因のことが多いでしょう。
また、情緒の成長と共に安心や不安、緊張やリラックスなど様々なことに繊細に反応する子どももいます場所見知り、人見知りが強い個性のある子どももいます。
3歳を過ぎた頃の母子分離不安も、入園などの環境の変化や、不安な様子を表す子どもに対して「もう大きいのだから」「いい加減慣れなさい」など、怒ってしまうことも原因になります。また、ママ・パパがいないところで知らない人とかかわることに不安を覚えるという性格の子どももいます。
それぞれどの年齢の子どもの母子分離不安も、年齢なりの理由があったり成長する上で必ずだれもが通る道であったりするわけであり、保護者の愛情不足や育て方が良くないといった理由ではありません。
ママ・パパは、子どもが自分から離れられないと恥ずかしく思ったり、なぜ自分の子だけ離れられないのだろうと悩んだりするかもしれません。
しかし子どもはみんな同じ成長過程を通るのではなく、一人ひとりに個性や性格、感じ方の差があります。
子どもは赤ちゃんの時からママ・パパと関わり、積み重ねてきた信頼関係や愛着を感じながら成長していきます。愛情や安心の感じ方は子ども一人ひとりみんな違います。 好奇心や自立心が旺盛なタイプの子ども、繊細で慎重なタイプの子どもなど成長と共にその個性もはっきり違ってくるものです。
ほかの子どもと比べることなく、不安を示すわが子への関わりをわが子に合わせてあげることで安心し、少しずつ子どもの不安が無くなっていくでしょう。
具体的な関わり方、対応をご紹介します。
トイレも落ち着いて行けない…!と嘆くママも多いことでしょう。赤ちゃんは見通しが立てられないため、保護者の姿が見えなくなることは保護者が自分の前から消えてしまったのと同じように感じます。
「トイレに行ってくるね。すぐに戻るからね。」と声をかけたり、離れた場所や赤ちゃんから見えない場所に行っている間も、声を掛け続けてあげることで安心するでしょう。
また、不安を示して泣いたときはしっかり抱きしめて「さみしかったね。よしよし」と声を掛けて泣き止むまで慰めてあげることも大切な。
このようなことを継続することで、家の中で見えなくなってもママ・パパは近くにいて戻ってくるということが、赤ちゃんにも少しずつわかってきます。
いつまでもママ・パパにまとわりついて友達の中に入っていけない、お出かけ先や幼稚園・保育園で楽しく過ごせないなどの姿を見ると、どうしていつまでも成長しないのだろうと悩んだりイライラしたりするかもしれません。
不安を示しママ・パパから離れたがらない場合は、叱ったり無理に離そうとしたりせず、子どもの不安を受け止め抱きしめたりスキンシップを取りましょう。
母子分離不安は決して愛情不足ではありません。3歳頃までは不安を示したときはしっかり抱きしめたりスキンシップをし、子どもが保護者からの愛情を察知できるように関わりましょう。
信頼関係ができ安心感を持つことで、自立心が勝り、少しずつ母子分離に不安を抱かず過ごせるようになっていきます。
入園した頃、そして入園してしばらくした頃に急に母子分離不安になる子どももいます。 はじめはあまり状況がわからず楽しく過ごしていたけれど、慣れてくるとママに甘えられない、関われないことに気づきます。長期のお休み明けや病欠明けに母子分離不安が始まることもあるでしょう。
また、3歳を過ぎた頃はママが二人目の子どもを妊娠・出産する家庭も多くなるでしょう。兄弟・姉妹ができることを周囲の大人は喜ばしく感じますが、上の子どもにとっては自分よりも赤ちゃんの方に関心が寄せられたり、お兄ちゃん・お姉ちゃん扱いされることにストレスを感じることがほとんどです。
日常生活の中で、子どもとかかわる時間を何とか増やし、親子の信頼関係を築くこと、愛情を感じられるようスキンシップを増やすこと、上の子とだけの時間を作ることなどを意識してみましょう。
また、園に預ける際は泣いても、先生にお任せしなるべく早く園を後にしましょう。そうすることで子ども自身が気持ちの切り替えをしやすくなります。
小学生になっても母子分離不安が続いたり、小学生になってから母子分離不安を示す子どももいます。
特に低学年の子どもに多く、幼児のようにママ・パパにべったりと抱きつきスキンシップを求めたり、きょうだいがいる場合はママ・パパを独り占めしようとしたり、保護者がそばにいれば友達と遊べるなどの姿が見られます。
特にママには赤ちゃん返りのように甘えますが、「赤ちゃんみたい」「もう小学生なのにどうしたの?」等と突き放したり注意・叱る・無視などせず、子どもの心を満たしてあげるように関わりましょう。
また、家庭での様子を学校とも共有し、柔らかな対応をお願いするようにしましょう。母子分離不安は、不登校へと進行していくことも考えられます。不登校になると解決までに時間を要するので、自宅は安心できる居場所となるように子どもをせかしたり甘えを拒否するようなことはせず、心の安定を第一に考え焦らず対応をしていきましょう。
また、家族は子どもをサポートしているママやパパをしっかりサポートしねぎらい、話をよく聞いてあげましょう。
母子分離不安は子どもの成長過程で誰もが通る道ではあります。でもあまりにも過剰に離れたがらなかったり、いつまでも続くことは少し心配ですね。
中には、「分離不安障害」の可能性もあります。
分離不安障害とは、愛着のある対象のひとから離れることで、もう会えなくなるかもしれないなど強い不安を感じたり、一人での外出ができなくなったり、腹痛や頭痛などの体調不良になることを言います。
気づかずに成長していくと、人に会いたくなく引きこもりがちになったり、生きることに対して無気力になったり、様々なことに集中力がなくなったりと大人になるにつれて重症化していきます。
分離不安の様子が長引く場合や、不安が強い場合は、専門機関や病院へ相談することをおすすめします。行動療法・精神療法など専門的な治療や関わりをしり、家族・学校・医療機関と連携を取りながら不安の解消を目指します。
母子分離不安を示す以外にも、会話がちぐはぐだったり、名前を呼んでもなかなか気づかなかったり、集中すると声をかけても反応がなかったり、同じ遊びやテレビ番組だけを繰り返し好んでいる場合など、ほかの子どもと違うな、気になる様子が見られることがあるかもしれません。
その場合も専門機関への相談や受診をおすすめします。
分離不安は発達障害や自閉症などの先天的な障害から現れることもあるからです。
筆者の長男は、場所見知り・人見知りが激しく、母である筆者にべったりとくっつき離れませんでした。また、同年代の子どもの集まりに参加しても1人遊びをしていることが多かったり、いつも同じ遊びやDVDを見ることを好みました。
初めての子どもだったので大切に育て、子どもに合わせた生活をしていましたが、言葉が出てくるとオウム返しが増えてきたので、専門機関を受診しました。その結果、ASD(自閉症スペクトラム)とADHDという障害があることがわかりました。
筆者の場合は長男に障害がありましたがすべての子どもがそうだとは限りません。ただ、保護者の心配や不安を解消するためにも、悩みが大きくなる前に専門機関に相談するのも解決のひとつだといえるでしょう。
母子分離不安に悩んでいるなら、お住まいの地域の公式ホームページで子育てについての相談窓口を検索してみるほか、通っている保育園や幼稚園、小学校などの先生に情報を教えてもらう方法もあります。
自治体によって相談センターの有無の違いはありますが、下記のような相談機関へ問い合わせてみましょう。
母子分離不安は子どもの成長のひとつだと理解していても、毎日のことで育児に疲弊してしまうこともあるでしょう。相談は、子どものためでもあり保護者のためでもあります。 解決へ向けた関り方や、心持ちも教えてくれます。専門機関にかかることを重く受け止めず、気軽に相談してみましょう。
中には予約が必要ですぐには相談できない相談機関もあります。思い立ったらすぐに連絡してみましょう。
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子育ては一山超えるとまた苦労がやってくるようで、やりきれない気持ちになることも多いでしょう。
困ってしまう子どもの姿があってもそれは保護者の愛情不足ではありません。
苦労を乗り越えながら親子で人として成長しているはずです。
つらいときは専門機関や周囲の人に遠慮なく頼りましょう。ママ・パパが元気でいることが何より子どもの心に大切なことです。ひとりで抱え込まず、相談してみてくださいね。
炭本まみ
保育士として10年勤務し、今は高校生と中学生を育てるママ。未だに子育てに行き詰ることはありますが子育てのアドバイス記事を書きながら自分も振り返っています。趣味はキャンプと旅行とカメラ。アウトドア記事や旅行記事、保育士や保護者向けのコラムを執筆中。
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