連載
のんたんせんせいの自然エッセイ

「心を動かし感じる体験」こそが子ども時代のタカラモノ。非認知能力を伸ばすために必要な体験が秋の自然にあふれている!

「心を動かし感じる体験」こそが子ども時代のタカラモノ。非認知能力を伸ばすために必要な体験が秋の自然にあふれている!
子どもたちは自然体験を通して、生きていくうえで必要な力「非認知能力」を伸ばすことができます。非認知能力と子どもの自然体験をテーマに、兵庫県西宮市で野外幼児教育を実践する「森のようちえん さんぽみち」の園長、野澤俊索さんが自然と子どもたちの関わりの大切さを語るエッセイ連載。隔週でスタートします。
目次

子どもたちの環境から自然の割合がどんどん減っている現代。そんな中、少しでも子どもに自然を触れさせたい…と願う親は多いのではないでしょうか。
いっぽうで、自然の中に身を置いたとき、子どもはどんなことを思い感じるのか。それに親はどう寄り添えばよいのか。
親自身も、自然とのふれあいが少ない中で戸惑うことも多いかもしれません。

森そのものを"園舎"とし、森での自然体験活動を保育の基軸とする兵庫県西宮市の「森のようちえん さんぽみち」。"のんたん"こと園長の野澤俊索さんは、自然の中で過ごす体験は、子どもたちの心の"ねっこ"に「生きる力」を育んでいくと語ります。

色・形・におい…秋は子どもと"変化"を感じたい季節

色とりどりの秋がやってきました。

野山にはオレンジ色にふくらんだカキの木や、赤紫のアケビの実、トゲトゲが痛い栗の実などがたくさん。子どもたちは柿の実を獲ろうとして長い棒を持ってきたり、とげが刺さらないように慎重に栗のイガを持ったりしています。
それでも急に話しかけられたりして、「いてっ!」と放り投げた拍子に、中から栗の実が飛び出してきたり。

そうしてタカラモノを手にした子どもはいっそう嬉しそうに微笑みます。

都会にも、もちろん秋はやってきます。
イチョウやケヤキの街路樹は綺麗に紅葉して色づきます。秋が深まると北風に吹かれて葉っぱを吹雪のように飛ばします。道端や公園の隅に生えている草花にも季節を感じることができます。

秋は変化の季節です。夏から冬へと移り行く時間の流れが、秋という季節を作ります。
だから、秋を感じるには変化を感じることが肝心です。

色の変化、形の変化、空や風やにおいの変化。自然豊かな山里では秋を感じやすいでしょうけれども、都会でも秋はしっかり感じられます。
都会に自然がなくなっているのではなくて、自然の上に都会が立っているのですから、気が付けば自然は都会のいたるところに現れているのです。

子どもたちと外をおさんぽしていると、子どもたちは道端の小さないろいろに新鮮な興味を抱きます。

3歳の子が小さな黄色い落ち葉を見て、「キリンがいるよ」といいました。
なるほど、黄色と茶色のまだら模様がキリンの模様に見えてきます。「ほんとだね。」といって、葉っぱを拾ってお互いに顔を見合わせてにっこり。
言葉は少なくても、感情の共感があるといいと思います。

アメリカの作家で生物学者のレイチェル・カーソンは、「知ることは感じることの半分も重要ではない」と述べました。
子どもたちにとっては、これは何だろう?ふしぎだな?おもしろいな!と感じることそのものが大切なことであり、そうした感情の動きの先に知的な好奇心や意欲が喚起されるということです。

そう考えると、いま幼児期の子どもたちには知識を増やすことよりも、心動かし感じる経験を増やすことを大事にしたいと思います。

さてここで、"非認知能力"について考えてみましょう。

ご存知の方も多いと思いますが、学力のように数値化できる能力を"認知能力"と呼び、意欲や創造性、協調性、自立心などの数値化できない力を"非認知能力"と呼びます。 非認知能力は心の中の力で、目に見えないものですが、生きていくうえで必要不可欠なとても大切な力です。非認知能力を土台として人間形成され、その力をもって認知能力が獲得されていくのです。

レイチェル・カーソンの言う、"知ること"とは認知能力を指していると考えられます。
そして同じように”感じること”とは非認知能力の成長を刺激する大切な要因だと捉えることができます。
そして最も重要なことは、子どもたちは与えられなくてもこれを自ら求めているということです。

さあ、子どもたちと一緒に自然の中へ(外へ)出かけましょう。

子どもたちは自然のあらゆるものに興味を示し、驚き、触れ、遊ぶでしょう。これは自然に沿った育ちの姿そのものです。

子どもたちは五感を使って自然と触れ合います。
枝や石や草花を、つかみ、うごかし、組み合わせて遊びます。自然の物は、そのどれをとっても同じものは一つもありません。感触、重さ、におい、色、音、いろんなことが無限に異なるのです。

自然の多様性をその手につかみ、それを遊ぶことで、子どもたちはこの世界を理解していきます。
石ころ一つを大切にしたり、木の枝を大事に抱えていたり。
子どもたちが人生のはじまりに感じる幸せは、こんなふうに、大人から見ればつまらないことですが、子どもたちの人生の終わりまで影響する重要なことだといえます。

道端の花のように、小さなことを大切に子どもたちと歩いていきたいと思います。



子どもに色々なことを教えてあげなくては、知識を増やさなければ…と親はどうしてもやっきになりがちです。でもそれ以上に、幼児期の子どもたちにとって大切な「感じること」。

次回は、"感じること"を目いっぱい楽しめる「おさんぽの仕方」を野澤さんに教えていただきましょう。

子どもの自然体験を楽しむポイント

  • 子どもが興味を持ったことには「ほんとだね」で共感をしよう
  • 子どもにとって大切なのは「知ること」よりも、心動かし「感じること」。子どもは自分から「感じること」を求めていける
  • 自然の多様性を五感で感じていくことで、子どもは一生にかかわる大切なことを学んでいく
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執筆者

森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索

NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。

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