森そのものを"園舎"とし、森での自然体験活動を保育の基軸とする兵庫県西宮市の「森のようちえん さんぽみち」。"のんたん"こと園長の野澤俊索さんは、自然には、子どもたちが成長の過程で求める変化と多様性があふれているといいます。
「自然の中のおさんぽ」は子どもたちにとってどんな経験で、何を感じるのでしょうか。
小さな手の中に何かをギュッと握って、「みて、みて!」と子どもたち。
そっと開くとそこには石ころや木の実や、葉っぱやお花、アリやバッタなどいろんなタカラモノが入っています。
子どもたちの目はキラキラと輝き、まるでこの小さな手の中にこの世の不思議をギュッとつかみ取ったかのような、ドキドキとわくわくを感じさせます。
子どもたちと自然の中をおさんぽすると、こんな発見の連続です。
あれは何?と指さす方を見ると大きなクモの巣。
これは何?と座り込んだそこにはアリの行列が。
葉っぱを踏んで歩いたり、水たまりに入ってみたり、大きな岩にしがみついたり、土手をおしりで滑ったり。
自然の中(外)をおさんぽすると、子どもたちが心惹かれる場所や物があふれていることに気づきます。
てくてく歩くと、景色が変わります。
平らな道からデコボコ道に変わったり、温かい日向から冷たい空気の日陰に変わったりします。鳥のさえずり、葉っぱの擦れる音、風のにおい。
子どもたちが体にまとう、すべての"環境"がどんどん変化していきます。
都会の大きな公園だって、街路樹や植え込みのある街の道だって、外を歩けばこういう変化は訪れます。そして子どもたちは体いっぱいでこの変化を感じとり、受け容れていきます。
幼児期の子どもにとって"今"とはまさに、人間的な発達を遂げようとしている時です。
子どもたちが今、感じていることのすべてが、五感の神経を通じた刺激となり、脳の発達を促していきます。
「大きくなりたい」とすべての子どもたちは願っています。そんな子どもたちは変化と多様性のある環境を求めています。
だから、自然の中に来ると子どもたちはうれしくなるのです。
抱っこをしていた子どもが、森の木立の中に入ると地面に降りたがることがよくあります。
落ち葉を踏む音や、大人の体を通じて伝わる足元のバランスの危うさ、目に飛び込んでくる木々の多様性、風が吹くたび木の匂いや土の匂いがすること。
そんなドラマチックなことがいっぺんに子どもの体に流れ込んでくるのです。それは、いてもたってもいられない出来事でしょう。
では、子どもたちと一緒に自然の中(外)をおさんぽする時、私たちはどんなふうに歩いたらいいでしょうか。
その時、おもちゃやボールなどの遊び道具や、子どもの気を惹きつけるような声かけ、説明、教授などは必要ありません。
ゆったりのんびりと構えて、一緒にてくてく歩くだけでいいのです。
自然からの刺激は微弱で繊細なため、大きな音や声、人工物の刺激にかき消されてしまうことがあります。
子どもたちは全身の感覚を使って、自然からのメッセージを受け取ろうとしています。子どもの力を信じて、静かにゆっくり自然の中(外)を歩いてみましょう。
子どもが感じとるいろいろな刺激は、そのうち言葉や態度で現れます。私たち大人は、それを評価しないで、そっと寄り添うことが大切です。
驚きや不思議など心動く出来事には一緒に心動いて見せてやり、じっくり見たいものがあれば横でじっと付き合います。
正しい知識や正しい行動を教えることよりも、子どもたちが"やってみたい"という気持ちを大切にして、大人から見ればおかしなことでも、まずは付き合ってみるとよいでしょう。
ある時、森の中を歩いていたら、3歳の子が木の皮がめくれているのに気が付きました。自然の森のゆったりとした時間の中で、その子はひたすら木の皮をめくっていました。そして30分ほどして満足するとこちらを向いてにっこりして、また前を向いて歩き始めたのです。
子どもの時間の流れは、自然の時間の流れに似ています。
そのリズムに、私たち大人が合わせることも大切なことだと思います。心のチャンネルを自然に合わせて、子どもと一緒におさんぽに出かけましょう。
次回は、自然遊びをする子をどう見守ったらいいか、野澤さんに教えていただきましょう。
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。