「レジリエンス」とは、たとえ困難な状況にぶつかっても、しなやかに適応して生き抜く力。しなやかな頭を作るために、家族で取り組めることを紹介していきます。
これまでの連載では、強い心を育むためには「振り返り」が大切だということ、感情コントロールがうまくできるようになる方法などを中山芳一先生に教えていただきました。
今回は、ともするとわが子を追い詰めてしまう存在にもなり得る"親の在り方"について。
わが子が安心して何でも話せる存在である、と認めてくれるために、どのようなことが必要なのでしょうか。
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折れない心には”自分の弱さも受け入れることが大切だ”とお伝えしました。私たち親は、わが子が自分の弱さを受け入れやすくなるように、「ありのままのあなたでいいんだよ」というメッセージを伝える努力をしています。
しかし、それでもやっぱりわが子が自分の弱さやマイナスの出来事をすすんで発信してくれない場合があります。
「できたこと」については親に教えてくれるのですが、「できなかったこと」については口を閉ざしてしまうわけです。
それは幼児の頃よりも、小中学生以降になると多くなり、その内容によっては深刻化してしまう場合があります。
ともすれば、学校でいじめのようなものを受けていても、親にSOSを出せなくなってしまいかねません。
もっとも身近な親にまで「よく見せたい」という思いがあらわれてしまう…これでは、自分の弱さを受け入れ、しなやかに、折れない心を持つことは難しいですよね。
いつか隠しきれなくなって、大変な結果を招きかねません。
じつは、この深刻化しやすい問題を解消するために、とってもおすすめのシンプルな方法があります。
それは、私たち親がわが子に向けて自分の弱いところを思いきり見せてあげたらよいのです。ついつい私たちは、親としての威厳のようなものを見せなければと思うあまり、できないところとか弱いところをできるだけ隠してしまう傾向があります。
私も親の一人として、その気持ちはとてもよくわかるのですが、実はそこが思わぬ落とし穴になってしまっているわけです。私たち大人も弱さを受け入れてくれる相手に対して、自分の悩みごとを相談しますよね。
その"弱さを受け入れてくれる相手"とは、どんな相手ですか?
案外、なんでもかんでもできるスーパーマンのような人ではなく、隣にいてじっくりと話に耳を傾けてくれる…そんな人ではないですか?
そして、ときには一緒になって泣いてくれる人かもしれません。つまり、わが子がプラスのことだけでなく、マイナスのことも話したいと思ってくれるような親は、何でもできて、威厳のあるスーパーマンでなくてよいのです。
ここでFさんという一人の親をご紹介しておきましょう。
Fさんは小学生の時にいじめを受けていました。
多くの方の場合、自分が子どもの頃にいじめを受けていた過去なんて、大人になってあまりオープンにしたくはないでしょうし、ましてやわが子にそんな過去なんて話したくはないでしょう。 みなさんならどうですか?
ところが、Fさんはわが子に平気で話してしまうんです。
すでに小学生になっている二人のお子さんは、自分の親が小学生のときに友だちがいなかったり、いじめを受けていたりしたことをとてもよく知っています。
Fさんはこう言います。
「私が友だちのいない子どもだったこと、いじめを経験してきたことは逆にいまの自分にとって強みだと思っています。なぜなら、もしもわが子が、友だちがいなくて悩んでいたり、いじめを受けて辛かったりしたとき、同じ経験をしてきた私になら話してくれると信じているからです」
なるほど、自分のマイナスだった姿を積極的に伝えることで、"あなたのマイナスを受け入れられる"というメッセージに変えているわけですね。
「ありのままのあなたでいいのよ」と言葉で伝えるよりも、「自分もこんなことがあったのよ(なんならいまもそうなのよ)」といったメッセージを伝える方が、たしかに安心して弱さを見せられるのかもしれません。
シンプルなことではありますが、大人になり親という立場ではなかなか難しいこと…。それでもわが子のためにもやっていきたいことですね!
岡山大学准教授 中山 芳一
1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。