頭のよい子に育てるには、その子が長時間を過ごす「おうち空間」に秘密があると語るのは、著書に『頭のよい子が育つ家』(文春文庫)のある四十万靖さん。その頭のよい子とは、「インタラクティブコミュニケーションスキル(ICS)」のある子であるということを前回お伝えしました。では、そのICSを育むことのできるおうち空間とは一体どんなものなのでしょうか?
本当に頭のよい子とは、人の考えを参考にして自分の考えを述べるようにできる子である。そして、その能力を「インタラクティブ・コミュニケーション・スキル(Interactive communication skill)」=ICSと呼ぶというお話をしました。
つまり頭のよい子を育てる家というのは、子どもがこのICSを育むことができる家というわけですよね。ICSを育む家、さてどんなおうちを想像されますか?
コミュニケーションと聞くと、わいわい家族で「会話ができる」家と想像される方も多いかもしれませんね。
しかし、子どもと「話をする」ことだけがコミュニケーションではありません。会話はあくまでも手段です。親子は何をコミュニケート(意思疎通)するべきなのか、それは「愛情」です。特にこの愛情は、子どもが小学校に上がる前くらいまでにしっかり感じさせてあげたいものです。
そのためには空間における愛情表現がキーポイントになります。そしてまた、それが会話のトリガーにもなるのです。
みなさんは、お子さんが初めて離乳食を食べた食器を家のどこに置いていますか?大切なものとして、しまっているのではないでしょうか?
それらをぜひ子どもの目につくところに置きましょう。
食器だけでなく、初めて公園を歩いたときの靴、初めて描いた絵、ペタペタ貼ったシール…。
子どもは物心がつくまでの自分を覚えていません。そうしたアイテムを通して、子どもは知らない自分に出会えます。
「これなあに?」「●●くんがはじめておかゆを食べたときの食器だよ」
そんな思い出のアイテムが、自分が愛されていたという記憶に変わっていきます。
場所は、食器ならいつもの食器棚、靴ならいつもの玄関など、子どもの目線に置いて何気なく気づく、あるいは「いつもそこにある」と感じられる位置がよいでしょう。
このように、子どもに何をどう伝えるのかを考えながら空間をマネジメントしていくことで、ICSを伸ばしていくための親子コミュニケーションの土台がしっかりと形成されるのです。
そうやって考えてみると、インテリアのためにシールを貼っちゃダメ!子どものプラスティックの食器は隠すなど、おしゃれなインテリアを優先して、子どもの行動や大切な想い出を排除するのは、おすすめしません。
たとえ一人でいても、家族を感じられる家。家族がさまざまなコトを「共有」できる家。
それらを通して、相手の思いを想像したり、自分が何かを感じたり。その感じたことを表現したり…。そういう毎日の繰り返しの中で、子どもたちは「人の考えを参考にして自分の考えを述べるようにできる」ようになっていくのです。
小さなお子さんにとってコミュニケーションの一番の相手は、そもそもお父さんやお母さんではありません。それは「おうちそのもの」です。物心がつく前に使っていた食器、初めてはいた靴など、さまざまなものを通して、子どもは親の愛情を確認しているのです
空間マネジメントの大切さをまなんだ上で、次回はさらに「子ども部屋」のあり方についてお話します。
一般社団法人 四十万未来研究所 代表理事 四十万靖(しじまやすし)
慶應義塾大学経済学部卒業後、伊藤忠商事入社。退社後、2003年、慶應義塾大学とのライセンス契約による、住宅の総合コンサルティングを行う、事業投資会社eco-s corporation設立を設立。2006年4月より慶應義塾大学SFC研究所所員 (訪問)として慶應義塾大学SIVアントレプレナー・ラボラトリ生活産業プロジェクト代表を兼任。2008年、eco-s corporationをスペース・オブ・ファイブ株式会社に社名変更。2014年、一般社団法人 四十万未来研究所を設立。著書に「頭のよい子が育つ家」(文春文庫)、「頭のよい子が育つ本棚」(学習研究社)、「頭のよい子の家にある『もの』」(講談社)など。http://shijima-mirai.or.jp/