夏真っ盛り!外ではセミ、カブトムシ、蝶、バッタ、ザリガニ…など生き物が元気に活動しています。生き物好きの子どもにとっては、昆虫採集や飼育に忙しい時期ではないでしょうか。
生き物から学ぶことは多いとわかってはいても、子どもが何かを捕まえて「飼いたい!」と言うとき、つい世話がうまくできずに死なせてしまうことを考えると、「飼うのはかわいそう」「自然のままでいるのが一番幸せ」「逃がしてあげて」などと言ってしまうことも…。
今回は、生き物に関心をもつわが子にどう寄り添ったらいいのか、自然保育を実践する「森のようちえん さんぽみち」の園長"のんたん"こと野澤俊索さんにお聞きしました。
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自然の中でお散歩したり遊んだりすると、たくさんの生き物に出会います。
自然で目にする多くのものは命を持っています。昆虫も、野生動物も、植物も。その証拠にみんな生まれてきて成長し、変化し、そして死んでいきます。そして食べられたり分解されたりして、死んだ生き物はほかの生き物の栄養となっていきます。
そんな生き物の生死を目の当たりにすることは、子どもにとって「いのち」を感じ、生の実感をもつ原体験となることでしょう。
ある日、子どもたちが遊んでいるとカマキリがいました。そのカマキリは大きなお腹をしていて、今にも卵を産みそうな姿勢でいたので、しばらくみんなで眺めていました。
そのとき、虫好きの男の子がやってきてそのカマキリを捕まえてしまいました。みんなはびっくり。「やめて!」と口々にいいました。
その子に「このカマキリはお母さんでもうすぐ卵が生まれるんだよ」と事情を説明しました。しばらくしてその子は目に涙をためながら「もりにかえす」と言いました。その涙から、その子の中にいろいろな気持ちがあふれていたことがわかりました。「そう。きっと、ありがとうって言ってるよ」と言ってその場は終わりました。
その日の保育後にお母さんにそのことをメールでお伝えしました。すると、お母さんから「ああそれで!」という返信が。「帰ってから子どもがもう一度森に行くといって聞かないので、仕方なく行きました。そうしたらカマキリの卵がありました」とのこと。
次の日、園のみんなにこのことをお話しして、もう一度カマキリの卵をみんなで見に行きました。
私の園では、生き物を捕まえることについて、子どもたちといくつかの約束をしています。
「お家に持って帰るときは、生きたまま持って帰れること」
その生き物に適した状態で持って帰ることができる場合にのみ、持って帰るようにしています。たとえば魚などは、ちゃんと観察ケースに水を入れてあげる必要があります。
「持って帰った生き物は、お世話をすること」
お家に連れて帰った生き物は、エサをあげたり、住み家を作ってあげたり、お世話をする必要があります。「自然の中にいたら自分でできるけれど、違うお家に連れて帰るのだから、しっかりお世話をしてあげてね」と伝えています。
お世話しきれなくなったら、また森に連れてきて自然に帰してあげるのもいいことです。初めから、一晩だけお泊りする、と決めて連れて帰る子もいます。
そして「死んでしまったらお墓をつくってあげること」
自然の中であれば、ほかの生き物の栄養になって、違う命に生まれ変わりますが、自宅で飼育しているとそれができません。だからお墓をつくってほしいと伝えています。
お墓をつくることにはもう一つ大きな意味があります。お家でお世話すると、どんな生き物でも必ず愛着がわくものです。そうなると、たとえば同じカタツムリでも、名前を付けたりしてほかのものとは別のものに感じるようになります。
そして、一度愛着をもった生き物が死んでしまうと悲しい気持ちになります。これは森の生き物を見ている時には生まれない感情です。そして、「そんなときにはお墓を作ると、お空の上でまた元気に遊べるんだよ」とお話をすると、子どもたちは想像をふくらませてお墓づくりを始めます。
お墓をつくることは、お世話した生き物と一緒に過ごしたことを、心の片隅にしっかりと残しておくために大切なことなのだと思います。これは人間らしい行為で、自然の生き物の死とは違う死の捉え方となります。
また、草むらで捕まえたカマキリが、お家に連れて帰ったら観察ケースの中で卵を産むこともあります。そうなったら、翌年の春までそのままにしておいてもらっています。温かくなるとそこからたくさんの赤ちゃんが生まれてきて、それは子どもにとってはとても神秘的な出来事です。生命の誕生に出会うのです。そんな風に時間をかけて、赤ちゃんになってから、森に帰してあげるのも良いと思います。
子どもたちは生き物の生死に触れることで、命というものを理解していきます。言葉では教えられない命の感覚を感じ取るためには、実体験しかありません。
そのため、自然の中で遊ぶことと、生き物を飼うことは子どもたちにとって大切な経験となります。
「かわいそう」という気持ちは、たくさんの生き物の生死に触れた経験から生まれるものです。子どもたちがそういう感覚を身につけるためにも、ぜひ小さな虫の命に触れることをさせてあげてください。そのたくさんの生き物の命が、いずれ子どもたちの命になって帰ってくるのですから。
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。