夏休みもそろそろ終わり、遠足や運動会など園行事の多い秋に突入しますね。
運動会や発表会では、わが子の晴れ姿を楽しみにするママ・パパが多い一方、「うちの子、ちゃんとできるかな?」と、つい心配してしまう気持ちも。
自分の出番に固まってしまったり、参加せずに走り回っていたり寝転んでしまったり…という姿も幼児期にはほほえましいものですが、親としてはドキドキしてしまいそう。
そんなわが子にどう寄り添ったらいいのか、自然保育を実践する「森のようちえん さんぽみち」の園長"のんたん"こと野澤俊索さんにお聞きしました。
子どもたちは1歳半を過ぎる頃から、成長と共に「今自分がしたいこと」がはっきりとわかってきます。自分の欲求に沿ってやりたいことをどんどん実現していくことで、身体的な能力や感覚を獲得しつつ、父母のもとから自分の世界へ自立していく一歩を踏み出していきます。
2歳前後には、自分で決めて、自分でやらないと気が済まなくなります。そして思い通りにできなくて、かんしゃくを起こしたりします。それは“自己実現”という成長の過程です。
好きなようにさせてくれて、泣き叫んでも見守ってくれるおうちの人の存在は、子どもたちの自己肯定感を高めていきます。子どもたちは心と体を存分に揺れ動かして、自己実現という成長のステージを越えていきます。
そしてまた、子どもたちは3歳頃になると、もうひとつ大きな成長のステージを迎えます。
幼稚園や保育園に行き始める頃、子どもたちは自己実現と共に、他者と関わることを学びはじめます。自己の世界と社会をつなぎ、社会性を身につけていくステージに入ります。そこには自己の実現とともに、他者の自己を尊重するという、相反するような事柄が含まれ、その葛藤に初めて身を置くようになります。
"人間"とは個人という見方と、属する集団(グループ)としての見方とがあります。保育の中では個と集団の両面から子どもを見ることが重要になります。
また、今までのように家族や親子という最小のグループにいるときは、個人と集団の思いがよく重なり合う(もしくは合わせてくれる)のですが、園や友だちという大きなグループにいるときは、対立したり葛藤したりすることが多くなります。
この対立葛藤は人間社会で生きていくうえで必須のものであり、それへの責任ある対処が生きていくうえで重要なことです。
幼児期はこうした社会性を身につけるとても重要な時期なのです。年少~年長の3年間をかけて、子どもそれぞれのペースでこのステージにたどり着き、乗り越えていきます。“遊び”と“共同生活”がその場面であり、時には大人の適切な手助けを受けて、乗り越えていきます。
私が、いつも心がけていることがあります。それは、物事を子どもの側から見るということです。
「みんなと同じことができる」かどうかを見て心配をするのは大人の側です。子どもの側から見てみると、また違ったその子の気持ちが葛藤しているように思います。その場から逃げたくなったり、逃げずにそこにいたり、じっと観察していたり。そして子どもたちはゆっくりと時間をかけて変わっていきます。
私の園では秋になると“さんぽみちまつり”という行事があります。そこでは、みんなでギターに合わせて歌ったり、踊ったりします。
その時にいつも、ごろんと寝ころんでしまったり、走り回っていたり、固まってしまっている子がいます。幼児期は、ここで何をしているのかとか、みんなですることの楽しさとか、いろんなことを感じながら育つときです。
寝ころんでいる子がいつ起きて、歌い出すのか。固まっている子の手がいつ動き出すのか。それを楽しみに待っています。もちろん待つだけではなく、ときにはお話をしたり、気持ちを聞いたりしています。
行事のときに注目されると固まってしまう女の子は、卒園するまでずっとそうだったのですが、卒園式でみんなの前で歌を歌うとき、口を少しだけ動かすことができました。その様子にとても感動したことを覚えています。
その子は中学生になって、今ではみんなの前でダンスを踊ったり、音楽会の司会をしたりしています。
体操のときにいつもごろんと寝転んでしまう男の子もいました。その子は年中の頃には起き上がってみんなのことをじっと見はじめ、年長になる頃にはみんなと一緒に笑顔で踊るようになりました。成長とはかくもゆっくりで、しかし確実なものです。
さて、ここまで年齢や時期の話をしてきましたが、最も大切な心構えは子どもたちの"今"を年齢や、園生活の3年間や、小学校の6年間などで区切って比較せずに、人間としての生そのものの一部として大きく見ることです。
その成長はひとりひとり違っていて当たり前です。100年の人生の中の今の姿を見つめてあげましょう。今のこの子が生きている姿を、しっかりと見つめ心に残しましょう。それは今しかない、かけがえのない姿なのですから。
そのために大切なことは、"遊び"と"共同生活"です。その中で自分の思いを伝えたり、一緒にやるように協調したり、ときには我慢したり。自分の思いとは違うことを受け容れることも必要なことがあります。
そのうえで、どう振る舞い、どう自己実現していき、結果に責任をもつか。
私たちは子どもたちに自由にのびのびと生きてほしいと願っています。しかし、なんでも自分の思い通りにしていては、社会の中でかえって肩身を狭くしてしまいます。
自己実現と社会性の両方を兼ね備えることが、本当の自由な生き方を身につけることになります。子どもたちは園生活の高度な人間関係の中で、日々葛藤を繰り返しながら成長していくのです。
でも、こんなに高度なことが3歳になったらすぐにできるというものではありません。それに、子どもたちの成長発達には大きな個人差があります。その時期を年齢で区切ることが正しいとも言えません。
ある子は3歳でも、もうしばらく自己実現を続けることが大事な時期だというときもあります。おおむね、幼児期の3年間をかけてこの新しいステージに到達して乗り越えていくと考えてよいのではないでしょうか。
また、社会性を身につける上で、ときには適切な大人の関わりが必要なことも付け足しておきます。
※写真はイメージです
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。
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