カッとして感情的に叱ってしまい、後で反省する…真剣に子育てをしているからこそ、そんな場面は多くあると思います。叱りすぎ?今の言い方でよい?…日々悩ましい子どもとのやり取り。
家庭教育アドバイザーのTERUさんによると、子どもを叱ることに悩みすぎる必要はないけれど、自分の中に叱ることへの一定の「ライン」をもっておくこと、子どもに伝わる叱り方を知っておくことは大切だといいます。
「子どもを叱るのはよくない」という子育て論もありますが、私は、叱っていいと思っています。
今は様々な主張や教育論があります。中には、極端に偏って「ほめないといけない」「叱ってはいけない」という論や、アドラー心理学(※1)では「ほめるのもよくない。認めるだけでよい」なんてことも言われています。
子育ては「100か0か」である必要がないと私は考えていて、時と場合によって「こういうときもあっていいよね」と柔軟に考えられることが大切だと感じています。
1966年に心理学者ダイアナ・バウムリンド博士によって始められた「子育てスタイル」についての研究では、子育てには4つのスタイル(※2)があり、その中で「民主的子育てスタイル」が理想の子育てスタイルと提唱されています。
「民主的子育てスタイル」とは、簡単に言うと、
主体性を尊重し、バランスをとっているのがよい子育てといわれており、「どういうときがあってもいいよね」と考えるのは、まさに状況によりバランスを取っている民主型の子育てスタイルといえるでしょう。
親として正しいと思うことは伝えなければいけません。その手段として叱る必要を感じたら、叱ってよいのです。あまり考えすぎなくてよいと思います。
また、よく「叱る・怒る・注意する」の違いなども聞かれますが、これも意識しすぎなくてよいのではないでしょうか。
一般的には”親の感情が入ってしまっていないか”、”親の都合で子どもを動かしたいがために言っていないか”…というところで判断ができるといわれています。
でも、叱りながら「今私、感情が入ってしまっているな~ダメだな~」なんて意識するのは無理なことですよね。
また、さまざまな教育論にがんじがらめになって、親はぐるぐると考えるばかりで言いたいことを言えなくなってしまうというパターンも多いようです。
それでは民主型の子育てスタイルから外れてしまいます。叱るも叱らないも、どういうときもあってよい、そのくらいおおらかにかまえてよいと私は考えています。
※1)心理学者アルフレッド・アドラーが創始した個人の創造性を大切にする心理学の体系
※2)消極的子育てスタイル、独裁的子育てスタイル、民主的子育てスタイル、無関心な子育てスタイルの4つ
ただし、親として叱る際には線引きを持っておくと分かりやすいと思います。私が考える「叱るべき」線引きはこの3つです。
●危険行為:道路に飛び出すなど、身体的に危険な行為
●迷惑行為:公共の場で騒ぐなど人に害を与える行為
●人の道に反する行為(反社会的行為):犯罪行為など
この3つは判断がつきやすいと思います。これに加えて、「家族で大事にしている約束を守れなかったとき」など、ご家庭の中で基準を決めてもよいかもしれません。
それ以外は、実は叱る必要がないことが多いものです。
日ごろ、叱ってしまうことを振り返るとこの3つに当てはまることが多いと思いますし、逆に当てはまらない場合は、自分の叱り方をちょっと見直してみてもよいかもしれません。
では、具体的には叱る際に注意したほうがいいことなどあるのでしょうか
私はキッズコーチングの観点から、子どもの叱り方について様々なアドバイスを発信していますが、その中でもとくに大切だと思う9つのポイントを紹介します。
叱るときは、言葉も時間も両方とも「短く」を意識してください。時間でいうと理想は1分以内。だらだら叱ることはよくありません。伝わりきっていないかも?と思っても"パシッと伝えておしまい"がよいと思います。
これはとても大事です。子どもが理解できるようにしっかり伝えることを意識してください。
言いがちなのは、「前も言ったでしょ!」「さっきも…」など、"今"ではなく別のときのことに派生させてしまうこと。「何度言ったら分かるの」などはまさによくありません。言いすぎることは人格の否定にもつながり、子どもも納得できにくいです。
つい「お兄ちゃんは~」「〇〇くんは~」など、言いがちですが、これも人格否定につながる恐れがあります。自尊心を傷つけてしまいますし、人と比べて判断する価値観を植え付けることにもなります。そういう価値観を持ってしまうと社会に出て人と比べて苦しい思いをすることにもなりかねません。
"何がいけないのか"を明確に伝えるため、できる限りその場で伝えましょう。お出かけ中など叱りにくいシーンでも、声を荒げて叱るのでなければ伝えられますよね。帰ってから「あのとき…」と振り返って叱っても子どもに伝わりません。
叱るとき、感情が高ぶってつい声を荒げてしまうことがあるかもしれません。でも、それで子どもが耳を傾けるようになるわけではありません。むしろ、いつもより声のトーンを1・2トーン低く、ゆっくりした声で伝えると、親の真剣な雰囲気に「いつもと違うな」と聞く姿勢になりやすいです。
これが一番大切なことですので、例を用いて説明します。
子どもが家の壁紙に落書きをしていたところを見つけたとします。見つけた時点で怒りがバーンとこみ上げてくる方がほとんどだと思います。しかし、感情のままに叱ってしまう前に「なぜ落書きをしたのか」に気づけることが大切です。
実は、お母さんの絵を描いて喜ばせようとしていたかもしれません。だとすると、それに親が気付けるかどうかで子どもからの信頼度が変わってきます。
自分がよかれと思ってやっていたことを頭ごなしに叱られてしまうと、「分かってくれない」という気持ちを抱き、信頼関係が揺らぐことになりかねません。
そんなときも、やってはいけないことは伝えなければいけないので、「お母さんのために描いてくれてありがとう。でもね、壁はダメだから、次は紙に書いてね」と伝えます。お母さんは自分の気持ちを受け取ってくれた、そのうえで壁に描いてはいけないんだな、ということが理解できます。
なかなか難しいのですが、頭ごなしに、ではなく一拍おいて考えてみることを意識してみてください。
「●●しないとおやつ抜きよ」「●●しないとサンタさんが来ないよ」など、代償に悪いことが起きるようなことを想起させないでください。子どもの恐怖心をあおって従わせるしつけは続きません。
できるだけ、同じ意味でもプラスの表現で伝えられないかを考えてみましょう。
例えば、「静かに待てる子のところにはサンタさんは来てくれるよね」など、シンプルで理解しやすい、プラスに感じられる表現を使えるといいですね。
親が子どもを叱るときは「今より良くなって欲しい」という思いですよね。つまり叱ることの目的は、子どもの意識レベルを上げること。叱ったあとに、子どもの成長を長期的に、広い視野で見た「どうなって欲しいか」を伝えるとよいと思います。
たとえば「〇〇ちゃんには、がんばれる力があるよ」「ママは〇〇くんのことを信じているよ」など。叱った先の次の視点を見ている終わり方をすると子どもも納得して、次につながってきます。
このようなプラスの心がけは、いい先生を見ていると上手に使っている人が多いです。クラス全体を叱った後に、ぽんっと次につながる言葉を伝えて、その場の空気を和らげられる。視点を次に向かせることを自然としているんですよね。
***
子どもの言動にカッとしたとき…「これは本当に叱るべきこと?」と少し立ち止まってみる、また、叱り方のポイントを意識して冷静に伝える。この2つが大切だとわかりました。
実際の子育ての現場では、「それができたら苦労しない!」というのが親の本音でもありますよね。
でも、すべてを完璧に行うのは難しくても、知識としてもっておくだけで、また「自分はこれだけは守る」というポイントを決めるだけでも、子どもとのやり取りがずいぶん変わりそうです。
次回はさらに詳しく、叱るときの具体的な表現についてTERUさんに教えていただきます。
家庭教育アドバイザー TERU
幼児教育の講師。 1000人以上の子どもたちと関わってきた経験をもとに、0~12歳の保護者向けに知育、育脳、子どもとの接し方など家庭教育情報を発信している。登録者8万人超のYouTubeでは"子どもを成長させる"実践的な子育て動画を配信中。
YouTube:子育て勉強会 TERU channel
Twitter:@TERUkyoiku
Instagram:teru_kyoiku
ライター 赤司 陽子
大学卒業後、製薬会社での勤務を経て、大手教育関連企業に転職。約10年間幼児教育・小学生教育事業に携わる。その後夫の海外赴任に随行し、アメリカで出産・育児を経験。多様な価値観に触れる。帰国後、フリーのプランナー・エディター・ライターとして活動中。現在、5歳女子・3歳男子の年子育児に奮闘中。
そもそも子どもを叱っていいのか?というところから気になります