集団生活の中では、お友だちとのトラブルは付きもの。
言葉での言い合いでは終わらず、相手を押したり、手や足が出て取っ組み合いになってしまう…という場面もありますよね。親としてはお友だちにけがをさせてしまわないかが心配で、最もわが子にやめさせたいことではないでしょうか。
どうして手が出てしまうの?言葉で解決できるようにするにはどうしたらいい?「森のようちえん さんぽみち」の園長、野澤俊索さんにくわしく伺っていきます。
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先日、木の上にいるクワガタを捕ろうとして木を揺さぶっている5歳の子がいました。なかなか捕れないので、どんどんエスカレートして、木の枝をつかんで引っ張り、葉っぱがちぎれていきました。それを見ていた別の5歳の子が、「やめて!」といって止めました。どうしてもクワガタが欲しい子は、一向にやめません。
そのうち二人は取っ組み合いのケンカになり、手が出て足が出る始末。保育者が止めて、ようやくその場は収まりました。
落ち着いたあとにふたりから話を聞きました。クワガタを捕ろうとしていた子は、クワガタを捕るのを「やめて」と言われたと勘違いしたようでした。本人からすればそれはできないので、クワガタ捕りを一生懸命続けていたら急に引き倒されたとのこと。
止めに入った子は、「クワガタを捕るのを止めて」と言ったのではなくて、木を引っ張るのを止めてほしかったのでした。そんなに引っ張ったら木がかわいそう。葉っぱもちぎれてるから「やめて」と言ったのでした。
そんな二人の思いはすれ違い、しまいには取っ組み合いのケンカになりました。その後、落ち着いてお互いの話を聞いたら、相手の考えていることが自分と違うということが分かりました。
言葉のもつ意味を理解するには、経験が必要です。その言葉に経験からくるいろいろな情景がのって初めて、人はその言葉の本質をわかることができます。そんな言葉をつなぎ合わせて、気持ちを伝えることはより高度なことです。
大人でもこんな言葉足らずのすれ違いはよくあることではないでしょうか。
気持ちのままに行動し、気持ちを伝えようと一生懸命になった子どもたち。
自分の思いを遂げようと必死になって工夫して、一生懸命頑張っていた子。
自分の思いを伝えようと一生懸命で、木を守ろうという優しい気持ちを強く持っていた子。
どちらも何ひとつ悪くない。幼児にとって、その気持ちを伝えるには言葉はまだまだ未熟であって、行動で伝えることが最善の方法なのです。
そして、結果的に手が出て足が出てしまいケンカになった。そこのところは、大いに反省すべきところで、次にどうしようかと考えるきっかけを与えてくれます。
こんなことを何度も何度も繰り返して、子どもたちは手が出る前に話し合いをするようになっていきます。
こうして見てくると、手が出てしまった最終的な行動そのものは許容できませんが、その裏にある気持ちは十分に受容することができると分かります。
「うちの子は乱暴なんです」と心配しないでください。つまりそれはただの暴力や乱暴ではありません。幼児のコミュニケーションの手段にすぎないのです。
まずは、その行動の裏にどんな気持ちが隠れていて、何を伝えようとしたのかを聞いてあげてください。そしてその後、落ち着いてからゆっくりと、してしまった行動をふりかえることができると良いと思います。
そうすることで、次第に行動の前に気持ちを伝えることができるようになるはずです。
いま、子どもたちにとっては「正しい方法」を知ることよりも、"伝えたい"という思いを持つことが大切です。その気持ちがあることを受け止めてもらい肯定してもらうことが大切です。
伝えようとしてうまく伝わらなくて、結果的に手が出てしまうことも今はあります。しかしその歯がゆさが、今後の自発的な成長への原動力になっていくのです。
クワガタのことでケンカしてしまった二人は、その時はまだ怒っていてお互いに何も言えませんでした。でも、話し合いの後しばらくして、止めに入った子からふと「さっきはごめんね」と小さな声で伝えたのです。
にっこり笑ったふたりは、スッキリした顔でまた前に進み始めることができました。
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。