さて、この「子育て軸」の連載もいよいよ最終回となりました。
「"正解のない子育てに対する不安感"を少しでもなくしてほしい」という思いから始めたこの連載ですが、正解がないって本当に難しいですよね。
子育てをしていると、親には常にいろいろな不安が付きまといます。ほんと、もっと気楽に子育てをしたいものです。
そんなみなさんへのご提案が前回説明した3つの「子育て軸」です。
この3つの子育て軸を上手に使いこなせれば、「正解はないけど、こうすればいいんだ」とか「ここからは子どもに任しちゃえばいいよな」といった安心感につなげられるのではないかと思います。
今回は親は3つの子育て軸をどのように使いこなしていくのかについてお伝えしていきましょう!まずは簡単に3つの軸についておさらいから。
まず、一番シンプルなのが「中心の軸」。
親の価値観がかなり影響してくる軸で、できるだけブレないことが大切です。
みなさんの中には、すでに価値観をはっきり持っている方もいれば、そうではない方もいらっしゃいますよね。
価値観がはっきりしていない、という方におススメなのが"パクっちゃう"ことです!
例えば、憧れの人とか好きな言葉とか…それってみなさんが「いいなぁ」って思ってるわけですから、そのまま自分の価値観に通じるってことになります。
ちなみに、漫画の『ワンピース』が好きな私は、ヒルルクという登場人物の「人はいつ死ぬと思う?(中略)人に忘れられた時さ…」っていう言葉が大好きです。
私も「自分が死ぬまでにできるだけ世の中のために何かを残して死んでいきたいな」と思ってしまうんですよね。そんな私だから、わが子たちにも「いろいろあっていいから、最後は世のため人のために人生をまっとうしてほしい」って本気で思っています。この思いは、まさに私の中心の子育て軸です。
次に、「方針の軸」。これはちょっと難しいかもしれません。
「この時期にはどんな方針にすればよいのか」「いまのこの子の状況からすると何がふさわしいのか」…などといろいろ考えてしまうもの。そこに、「〇〇をした方がいい」「××はしない方がいい」という子育て情報も入ってくると、なおさらわかりにくくなってしまいます。
ここで最大のポイントはシンプルな方針を立てることです。
例えば、埼玉県秩父神社にある「親の心得」は、めちゃくちゃシンプルでわかりやすいですよ!
一.赤子(あかご)には肌を離すな
一.幼子(おさなご)には目を離すな
一.子供には手を離すな
一.若者には心を離すな
乳児から幼児前半(0~3歳頃)はしっかり肌のぬくもりを与えてあげよう。いわゆる「アタッチメント(愛着関係)」ですね。
幼児後半(4~6歳頃)はまだわからないことも多く、危険なこともあるので、教えたり伝えたりしながら守ってあげよう。
そして、小学生になれば自分たちだけで行動し始めるから、その行動の先が安全かどうかは見守ってあげよう。さらに、中学生以降になればもっと活動範囲が広がり自立していくので、関心の糸だけは切らないようにしておこう…といったことが書かれています。
まさに発達段階の特徴を視野に入れたとてもシンプルな方針の軸ではないでしょうか。私も子育ての方針で迷ったときには、こちらをかなり参考にさせてもらっています。
最後に、「判断の軸」になりますが、ここはいろんな場面でいろんな判断軸が出てくるので、悩みが絶えないところですよね…。
前回、できるだけ正反対の"両端"を作ってから、それぞれに重りを置きながら判断していくことをご紹介しましたが、中心の軸と方針の軸も合わせて具体的に説明していきますね。以下の事例をご覧ください。
具体的な事例を使って、3つの子育て軸の使い方をご紹介しましょう。内容はどんな軸をもつかで変わってくるので、あくまで例となります。
【事例】6歳の子どもが園で友だちの持っていたキーホルダーを「見せて見せて!」とグイグイ引っ張っているうちに壊してしまいました。そのことを知ったあなたは帰宅後にどうしますか?
「中心の軸」が「わが子に思いやりのある人に育ってほしい」だったら、「自分の都合で人の物を壊してしまったことはよくなかった」と子どもが感じているかどうかを確認しますよね。
そして、感じているならもう一度確認するし、感じられていないなら、さらにやりとりが必要になることでしょう。
子どもが「人の物を壊してよくなかった」と感じられていない場合…
「方針の軸」が「いけないことは『いけない』ときちんと教えていきたい」だったら、ひざを突き合わせて「いけなかったことは何か」「これから気をつけるべきことは何か」などしっかり話をしていきます。
やるべきことが決まったら、あとはわが子がどれだけわかってくれるかです。
子どもの実際の反応を見ながら、伝える内容や表情・口調に気をつけながらわが子にわかってもらおうとするでしょう。
ところが、目の前のわが子は全然みなさんの方を向きもせず、グダグダしているとします。
さあ、ここで「判断の軸」の登場です!
【話を続ける⇔話をやめる】
【興味のある話からする⇔ストレートに必要な話だけする】
【厳しめに叱る⇔穏やかに諭(さと)す】
こんな感じに"両端"のある判断の軸を作ったとします。
もちろんどれか一つだけでもOKです。そして、ここからはリアルタイムでわが子を見ながら判断していかなければならないので、きっとかなり頭を使うことでしょう。
さて、ここで安心していただきたいと思います。親が中心の軸と方針の軸を使って、わが子ときちんと話そうとしたところまでで8割方のかかわりがお子さんとできていると考えてみてください。
真剣に聞いてくれなかったり、こちらから話すのをやめたりと、うまくいかなかった場合でも、そこは残りの2割として悩まなくても大丈夫です。だって、親子の時間は、今だけでなく「続き」があるんですから!
大切なのは親の姿勢を示すこと!
具体的な場面の一つひとつを成功させようとしなくても、みなさんが話をしようとしたことがお子さんには最も大切なことなのです。みなさんが何を大切にわが子を育てようとしているのか(中心の軸)、そしていまは何を思いどうしようとしているのか(方針の軸)…まずはこの二つをしっかりとわが子に見せましょう。
私は、子育ても教育も「押しつける」ものではなく、「置いていく」ものだと考えています。つまり、「いますぐわかりなさい」と押し付けるのではなく、あとは子どもがわかってくれる(拾ってくれる)ときが来ることを信じて託す(置いていく)ということです。
単なる放ったらかしの子ども任せというのではありません。先ほどのような8割方をまずは大切にしながら、その時その時で判断の軸を使ってわが子のために判断している姿をわが子に見せてあげることです。そして、いつかわが子なら拾ってくれる…そう信じることです。
このように子育て軸を使って、子育ての不安感を少しでもなくしていただけることを願いながら、8回にわたる子育て軸の連載を終えたいと思います。
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いろいろな価値観があり、子育ての方針も判断もそれぞれでよい。でも、拠りどころとする"子育ての軸を明確にしておくことで、必要以上に悩むことなく、子育てが少しラクになるはず!そんな中山先生からのメッセージでした。
難しく考える必要はありません。慌ただしく過ぎていく毎日の中で、少しだけ自分を振り返ってみる時間がもてるとよいのかもしれませんね。
岡山大学准教授 中山 芳一
1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。