これまで、みなさんにはいろいろな角度から「子育て軸」についてお話してきました。しかし、実は「子育て軸」そのものがいったい何なのかについては、あまりはっきりとお話をしてきませんでした。
そこで、いよいよ"子育て軸そのもの"のお話をしていくことにしましょう。
まずはこの図をご覧ください。
このように子育て軸は3つの軸でできているんです。この3つの軸について一つずつ説明していきたいと思います。
まず、ちょっと小難しい話!そもそも「軸」とは何かについてご説明しておきましょう。
「軸」とはいろんな物の中心というのが本来の意味です。車のタイヤとタイヤをつないでいる軸やコマの真ん中の軸などがイメージしやすいかもしれませんね。そして、軸には「いろいろあってもブレないこと」が求められます。たしかに、タイヤやコマの軸がブレたら、うまく回転しませんよね…。
このブレてはいけない「中心の軸」は、何よりも親御さん一人一人の大切にしたい価値観がベースとなって、「〇〇な子どもに育ってほしい」という願いにつながります。ちなみに、第4回でご紹介した【9つの問い】などは、まさにみなさんの価値観=中心の軸を知っていただく方法として提案しました。
なお、この中心の軸は、決して欲張ってはいけません!「あれも大事、これも大事…」と欲張って願いをてんこ盛りにしちゃうと、親も子も苦しくなってしまうだけです。
例えば、「運動もできて、勉強もできて、落ち着きがあって、言うことも聞いてくれて、思いやりのある子どもに育ってほしい」なんてことになったら、みなさんの子育ても大変になるし、お子さんも期待ばかり背負わされて息苦しい思いをしてしまうでしょう。
くれぐれも欲張らないこと。そう!「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」みたいな感じですよね。
中心の軸はできるだけ欲張らずにブレない一本を!だけど、実際にわが子を育てるためにはどうすれば?
この時期のわが子にどんなことを重視しようか?…などといった子育ての方向性、つまり「方針の軸」は決して一つに限られるものではありません。
もちろん、第5回で紹介した事例のように、それさえも一つに絞り込む方もいらっしゃるでしょう。しかし、多くの場合はその都度方針の軸を変えていくことになります(※第6回参照)。
この場合、方針の軸を変えていくことで一見ブレているように見えてしまいますが、軸を変える理由がしっかりしていれば問題はありません。ただし、中心の軸がブレていないことは必須条件です。中心の軸がブレてしまったために方針の軸までブレてしまったら身もふたもありませんからね。
例えば、中心の軸は「のびのびと育ってほしい」だとしましょう。そのため、これまではできるだけ子どものやりたいことを(わがままも含めて)できるだけ受け入れてきたとします。
しかし、わが子が6歳を迎える頃には園での集団生活や小学校入学のことも考えて、「やりたいこと」と「わがまま」とを区別できるようになってほしいと考え始めました。そのため、これまでわが子へ厳しい注意などはしてこなかったのですが、わがままなことをした際に、それはわがままなんだよと伝えて受け入れないかかわりを始めたとします。
このように、中心の軸はブレていないのだけど、方針の軸としていまの時期のわが子に大切なこと(重視したいこと)を方向づけていけばよいわけです。
さて、方針の軸は、多くの場合「年中さんのうちは…」とか「小学校に上がるまでは…」といった節目が意識されます。また、「これまで我慢させすぎたから…」という現状から「もっと自由にさせてあげたい」といった方針が生まれる場合もあるでしょう。
いずれにしても「いま、この瞬間」でもなければ「1日や2日」でもなく、一定期間にこそ方針の軸は必要です。そして、この期間の中には、その時々でみなさんの判断が求められるたくさんの子育て場面があります。
みなさんは、わが子にかかわるときにはいつも何らかの判断をしているはずです。このときに、みなさんに使っていただきたい軸が「判断の軸」です。
「こんなときどうするの!?」という子育て場面での判断…ともすれば、みなさんにとって最も興味のあるところではないでしょうか。
この判断の軸は、先ほどまでの二つの軸と大きな違いがあります。というのも、その都度いろんな軸ができてしまうからです。だから迷ってしまうんです。
第1~3回まででもいろんな判断の軸を紹介してきたので、きっとお分かりいただけることでしょう。バスの中で歌い始めたわが子…「ここで見守るべきか、止めるべきか」を選択する上で、「わが子の思いを優先?周囲のご迷惑を優先?」といった【わが子ー周囲】の軸を持ったとします。私たちは、ここで迷うこともありますし、判断したあとに後悔することだってありますよね。
ちなみに、この判断の軸には【わが子ー周囲】といった「両端」が必要不可欠です。どういうことなのか、具体例を出して説明していきましょう。
例えば、わが子が晩ごはんの買い物途中に、商品棚にある魚に興味を強く持って、じーっと見つめ始めました。ここで、「このまま見ていたいというわが子の思い」を大切にすべきか、「速やかに買い物を済ませてスムーズな生活」を大切にすべきかという【わが子ー生活】の軸を作ってみるんです。
こうやって、できるだけ正反対(両極端)になりそうな軸を頭の中で作ることができれば、そこから天秤にかけちゃいましょう。つまり、この天秤に重りをのせていくイメージです。「最近、この子がこんなに興味を持つことってなかったよな」という重りや、「最近晩ごはんが遅くなって寝るのも遅くなっているな」という重り…。いま、両方に一つずつ重りがのりましたよね。ほかにはどんな重りがのっていくのでしょうか。
この結果、いずれかを判断して実際のかかわりへ移していくことになります。この判断の軸と天秤+重りは、いろんな子育て場面で使えます。
例えば、ジャングルジムの高いところに上っているわが子を止めるべきか、見守るべきか…。わが子に対する【やりたいー安全】の軸あたりがよさそうですね。「さすがに高すぎるな」という重り、「この子は得意(または苦手)だからな」という重りなどをのせていきましょう。そのとき、重りがたくさんのって天秤が傾いた側に判断していくことになります。
いかがでしたか?
これまでの内容を一度整理してみました。次回は、子育て軸を実際にみなさんの子育てに活用するためのお話をしていきたいと思います。引き続きお付き合いください!!
岡山大学准教授 中山 芳一
1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。