これまで中山芳一先生にさまざまな「子育て診断」とその解説をしていただきました。
読者のみなさんは、親として自分がどんな「子育て軸」をもっているか、だんだん明らかになってきたのではないでしょうか。
今回は、具体的なエピソードから、"親としてのブレない子育て軸"について考えていきます。
私たちが運営しているA.M.I学童保育センターという民間学童保育所が岡山県岡山市にあります。
設立7年目で約220名の子どもたち(小1~6年)が通っていて、施設数は3施設。どこよりも純度100%の学童保育を目指しており、読み書きや計算、英語などではなく、生活と遊びの場である「学童保育」としての価値を全面的に出していることを強みにしています。
今回は、このA.M.I学童保育センターで全スタッフたちをまとめてくれているセンター長(27歳・男性)について紹介させてください。指導員歴7年目にして現場監督として申し分のない力を発揮してくれています。やり抜く力やコミュニケーション力がすこぶる高く、若くして同僚たちからも保護者たちからも学校の先生や地域の方々からもとても信頼の厚いセンター長です。
彼は簿記系の専門学校卒で、当時の専門学校の熱心な先生に惹かれて教育の仕事をやってみたくなり、脱サラして私たちの学童保育所に来てくれました。
未経験で門外漢だった彼ですが、その成長ぶりは目を見張るものがあり、気づけばセンター長の役職に立ってくれています。
それにしても、どうしてこんなに彼はたくましく、頼もしく育ったのか…。もちろんいろんな要因があるのですが、彼の語りの中にはご両親、特にお父さんの話がよく出てくるのです。
実は、彼のお父さんは、絵に描いたような頑固一徹!
「そんなケガならツバつけとけば治る」「仲間のことを自分よりも大事にしろ」「弱音を吐くな、あきらめるな」…などなど、古き良き「昭和」の時代を思い出させてくれるような言葉の数々を彼は子どものころからしっかり聞いて育ってきたそうです。こうしたお父さんからの言葉を受け取ってきた彼なら、今のたくましさや頼もしさも納得の一言です。
しかし、どうでしょう?一方では、少しのケガでもきちんと水洗いをして湿潤療法、仲間のことよりもまずは自分自身、ありのままに弱音だって吐いてもいい…というメッセージだってあり得ますよね?
さあ、みなさん!ここで、どっちが正解なのかが問われるわけです!
しつこいようですが、今回もはっきり言わせていただきますね。ここでもやっぱり、どっちが正解ということはないんです!!
彼のお父さんの子育て軸はとてもはっきりしていました。
そんなお父さんの子育て軸に裏付けられた暑苦しいほどの言葉の数々を、彼は「正直、いろいろ言われて鬱陶しいこともありましたけど、これは大事なことなんだなっていうのは、なんとなくわかってきました」と教えてくれました。
親御さんが自らの軸をはっきりさせてブレずに伝え続けることで、子どもの方もその中で何を大事にしたらよいのかを自ら考え、受け取ってくれる…そんな事例の一つではないかと思います。
親がその軸をブレずに発信し続けて、あとはわが子が受け取ってくれることを信頼するのみ…。結局のところ、受け取ってくれるかどうかは子どもの方ですから、常にその軸をブレさせないことで伝えていった彼のお父さんに敬服の念を抱いてしまいます。
やっぱり、子育て軸の向こう側にあるのは、その子がどう受け取ってくれるのか、結局のところあとは子ども次第というところなんでしょうね。
さて、次回は今回の真逆で、ブレない子育て軸によってわが子へ発信し続けるのではなく、"わが子の実態に応じて子育て軸を修正していく"という事例について紹介していきます。
「子育てに正解なし!でも、子育て軸は持っていこう!そして、最後は子どもに委ねるべし!!」このことをみなさんと事例をもとに確認していくことにしましょう。
岡山大学准教授 中山 芳一
1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。