前回の記事では、幼児期の子どもに取り入れたいレジリエンス教育について紹介しました。心を育てるための第一歩は、感情に気がつき、言語化するサポートを行うこと、そして親が子どもの安全基地になってあげること。
でも、親もつねに余裕があるわけではありません。
時にはネガティブな感情があふれ出して、子どもの気持ちをありのままに受け止めたり、感情コントロールをサポートしたりすることができなくなるだけでなく、つい感情を子どもにぶつけてしまい自己嫌悪に陥ることも…。
そんなときはどうしたらいいのか、一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事の足立啓美さんに教えていただきます。
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私のところにも、保護者の方から「イライラしたときに、ついキツい言葉を子どもにぶつけてしまう」などの相談や後悔の声が届きます。
お子さん思いで責任感の強いお母さん方が多く、それが故に、自分を責めて落ち込むことも多いのです。しかし「イライラしてしまった」という自分の感情に気づくことは、実はすごく大事なこと。
「自分の感情なんだから分かっていて当たり前」と思うかもしれませんが、“自分ってこんなにイライラしていたんだ!”と気付いて少し客観的に見られることで、子どもへの対応も変わってくるのです。
先にもお伝えしたように、イライラなどのネガティブな感情はとても大切な感情です。しかし、ネガティブ感情は頭に残りやすく、思考、感情、体の反応を伴って、ネガティブな状態から抜け出せない状態になりやすいのです。これを「ネガティブ沼」と呼んでいます。皆さんも、ネガティブな考えが頭から離れず、気持ちがなかなか晴れないことがあるかもしれません。
そんな時は、先にご紹介したネガティブな感情を言語化していくことも有効です。
大人を対象にしたある研究では、ネガティブな感情になったときに「私、今イライラしている」「悲しい」と声に出すだけで、その気持ちが和らぐという結果が出ています。
それ以外にも、深呼吸、運動、音楽を聴く、没頭できることをするなどがネガティブ沼から抜け出すのに有効であると言われています。
子育て中の親は、子育てだけでなく、配偶者との関係や仕事など、本当に色々なものを抱えています。
例えばコップに入っている水を感情だと例えます。多くのストレスを感じて、常にコップのギリギリいっぱいまでネガティブ感情が溜まっている状態を想像してみましょう。
日々、そのコップの水をこぼさないように…なんとかなんとか頑張っている中で、感情を揺さぶられる出来事があって、水(ネガティブな出来事)が一滴ポトンと入ると…コップの水は途端にあふれ出して、感情爆発。子どもに対して感情をぶつけてしまうことも。
コップの水を無くすことは、ネガティブ感情を無くすことであり現実的ではありません。しかし、コップの水を少しでも減らす"何か"を見つけておくことをおすすめします。
例えば、深呼吸する、ヨガをする、スマホで好きなアイドルの動画を見る…など、方法は自分に優しい方法であれば、何でもOK!暴飲暴食や誰かにあたるようなことは別の問題を引き起こしてしまうため、優しい方法とは言えません。大切なのは、自分に合った方法を知っておくこと。
"自分の物事のとらえ方のクセ"を知っておくのも、親がネガティブ沼から脱出する助けとなります。"とらえ方"というのは、ネガティブな感情に陥った時の思考パターンのことです。
例えば何か失敗したときに、「すべて自分が悪い」と罪悪感に苛まれやすい人もいれば「すべて相手が悪い」と相手を非難し、怒りの感情を感じる人もいるでしょう。
「全て自分が悪い」「全て相手が悪い」などと、出来事のとらえ方の傾向が、感情に影響を与えているのです。
事実はニュートラルなものなのに、自分自身でネガティブな意味づけ(とらえ方)をしてしまったがために、ネガティブな感情が湧きおこってしまうことが、実はたくさん起こっています。
ネガティブにとらえないで、ポジティブ思考にということでしょうか?
ネガティブな考えを排除し良い面だけを見てポジティブな考え一色にするという、ポジティブシンキングやポジティブ思考とは違います。
最初に思ったネガティブな感情も、その人にとっては真実です。
ネガティブになるのは人として当然で、ネガティブ思考から抜け出せなくなることも誰もが経験することなのです。まずは「このようなとらえ方をする自分もいるんだな」と受け止めてあげてください。
「私には無理かも」と思ったことを、「私にはできる!」と100%ガラッと変えることは心理的に負担がかかります。
まずは、「今、私はこういう状態なんだな」と認めて受け入れる。その上で「でもちょっとだけ別の見方をするとどうなんだろう?」とか「憧れの〇〇さんだったらどう考えるかな?」と、違う視点を加えてみるのです。
このようにネガティブな考えをなかったことにするのではなく、ネガティブに偏ってしまっているとらえ方を、より現実的でバランスのとれた見方に変えていくことが大切です。
ネガティブ思考から抜け出せないときはどうしたらいいのでしょうか
いつまでもネガティブな考えをぐるぐる巡らせてしまう"ネガティブ沼から脱出するには、没頭できる何かを持っておくことも有効です。
お料理でひたすらみじん切り、棚の掃除…など何でもいいんです。ふっと感情から離れて夢中になれることがあると気分がちょっと変わります。
気分がちょっと変わるだけで、子どもに対しての態度や行動は変わります。
私たちはネガティブな気持ちになることもあれば、多くのストレスを抱えてネガティブ沼にハマってしまうこともあります。しかし、そんな時の対応方法をたくさんもっておいて、そのときどきに合った気分転換の方法をいろいろ試してみるのがよいですね。
一気に気持ちがバラ色になるのは難しいですし現実的ではありません。しかし、ちょっとの気持ちの変化がその後の行動に影響するのです。
また、ネガティブな感情を感じれば感じるほど、ネガティブ感情に集中して、なんとか取り除こうと必死になってしまう人が多いもの。でも、ネガティブ感情に対応するとともに、ポジティブな感情に引き上げてもらうという意識も大事です。
ポジティブ感情はネガティブ感情に比べて残りにくく、すぐに消えてしまう特性があります。しかしながら、ポジティブ感情の研究者であるバーバラ・フレドリクソン博士は「ポジティブ感情は、私たちの視野を広くして考えや行動の幅を広げる。そして、レジリエンスを含めて様々なリソースを構築することで、人々に成長をもたらす」と報告しています。
大自然を目の前にして「わ〜素晴らしい!」と畏敬の念を持つことで心が満たされる人もいれば、新しい挑戦を目の前にして「よしやるぞ!」と自分を奮い立たせるような「鼓舞」と言われる感情がエネルギーとなる人もいるでしょう。
心身のエネルギーとなるポジティブ感情は人によって違うため、自分がどんなポジティブ感情からエネルギーをもらうことができるのかを知っておくことも大切です。ポジティブ感情の力を借りてエネルギーを蓄えることは、ストレスの緩衝材となるのです。
レジリエンスを育てることは子どもだけでなく大人にも大切で、日頃意識していくべきものだとわかりました
当協会(日本ポジティブ教育協会)で行っているレジリエンスの講座には、親子で一緒に参加される方も多いです。子どもが友人関係や学校関係など、何かにつまずいたことがきっかけで、心の教育の大切さを再認識した、という親御さんが多いですね。
レジリエンスにはチームのレジリエンス、つまり家庭でいうと家族としてのレジリエンスを育てるという考え方もあります。
親子でレジリエンス教育をうけることで、個々のレジリエンスだけでなく、家族としてのレジリエンスが育っていくというメリットがあります。
実際に講座を受けてくださっているお母さんと小学校の子が、お父さんがすごく疲れて帰ってきてイライラしていたから、子どもが「一緒に呼吸法をやろう」といって一緒にやりましたと報告してくれたこともあります。
お父さんも「呼吸するだけでこんなに気持ちが変わるんだね!」と驚いていて、次の回から家族3人で講習を受けてくれました。
親がどうやってネガティブな感情を乗り越えるのか、子どもはよく見ています。
たとえば親がイライラして物に当たっていたら、その方法が良いのかと思って子どもはマネしてしまいますよね。でも、良い形でネガティブな感情を乗り越える経験を見せてあげれば、その子も取り入れていくようになるんですよ。
***
ネガティブな感情を取り除くのではなくプラスの要素を重ねていく、という視点はまさに目からウロコ。
親もネガティブになる時はあって当たり前。
まずはそんな自分を受け入れることができたら、水いっぱいのコップにも少し余裕が出そうです。「親が子どもにしてあげなくてはいけない」ではなく、おやこで一緒にレジリエンスを育てていけたらいいですね。
日常生活でレジリエンスをはぐくむ、親から子への声かけの秘訣が詰まった実践的な一冊です。
『子どもの心を強くする すごい声かけ』
足立啓美 著
主婦の友社刊
単行本1,540円/Kindle版(電子書籍)770円(ともに税込)
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一般社団法人日本ポジティブ教育協会 代表理事 足立 啓美
レジリエンスジャパン推進協議会「レジリエンスを醸成する仕組み作りWG」「子どものレジリエンス教育WG」委員。メルボルン大学大学院ポジティブ教育専門コース修了。国内外の教育機関で10年間の学校運営と生徒指導を経て現職。現在は、ポジティブ心理学をベースとした教育プログラムの開発、小学校〜高校、適応指導教室などさまざまな教育現場で、レジリエンス教育の講師として活躍している。最新刊は『子どもの心を強くする すごい声かけ』(主婦の友社)。 一般社団法人日本ポジティブ教育協会http://www.j-pea.org/
ライター Ichika
山梨県生まれ。関西、九州での生活を経て11年ぶりに地元に戻りライター業をスタート。身内や友人に教育関係者が多く、たくさんのヒントを得ながら自分なりの育児を模索中。子育て経験をもとにした体験談やコラムも発信しています。
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