日々のわが子の成長に喜び「立てば歩めの親心」のように、成長を楽しみに待ち望む子育て。成長を感じることで、大変な子育ても報われることでしょう。
ところが何かをきっかけに突然、赤ちゃんのように泣き叫んだり、ひっくり返って駄々をこねたり、自分で着替えや食事をしなくなったり、わざとおもらしをすることがあります。
せっかく成長し少しずつ自立してきたのに、赤ちゃんのようにふるまうわが子の姿に、がっかりしたりストレスを抱えたりする保護者も少なくありません。
「赤ちゃん返り」と呼ばれるその子どもの姿は、なぜ起こるのでしょうか。
きっかけはどのようなことなのでしょうか。
保護者ができる子どもへの対応や、少しでも早くおさまる方法など、保育士と保護者目線から元保育士の炭本まみがお話します。
赤ちゃん返りとは、これまである程度できていたことができなくなったり、感情が不安定になったりすることを言います。おおよそ2歳から3歳くらいの子どもが赤ちゃん返りをすることが多く、中には小学校入学前まで続く子どももいます。
赤ちゃん返りをしている子どもは、下記のような姿がよく見られるでしょう。
自分で意識してすることのほか、無意識的にしてしまうこと、精神的なストレスや保護者への依存の気持ちなどからくる行動もあります。
子どもは基本的には自ら成長していきますし、「早く大きくなりたい」と思っているものです。なぜこのような「赤ちゃん返り」をするのでしょうか。
もうすぐ2人目が生まれ、家族が増えるということはとても幸せで楽しみなことです。 期待を抱きながらも、まだ小さな上の子と赤ちゃんの子育ては大変だろうな、大丈夫かなと不安にもなるでしょう。
ママやパパがそんな嬉しさと同時に不安を抱くのと同じように、子どもは赤ちゃんが生まれるとどのような生活になるか不安で一杯です。
「もうすぐお兄ちゃんだね!」などと周囲からことあるごとに言われているかもしれません。お兄ちゃん・お姉ちゃんになることは、くすぐったいようなうれしさがあるものの、実際に赤ちゃんが生まれたら、どんな生活になるのか、まさかママが赤ちゃんにつきっきりになるとは思いもよらないのです。
ママが「赤ちゃんのママ」にもなる…、自分だけのママではなくなる…、そう思う不安感や先の見えない焦り、周囲の期待から赤ちゃん返りをすることもあります。
実際に赤ちゃんが生まれ、一緒の生活がスタートすると初めはお兄ちゃん・お姉ちゃんの振る舞いをしようと頑張るかもしれません。
けれど、着替えがうまくできない・牛乳をこぼした、靴が履きにくい、などこれまでさまざまな小さな困ったことについてママの手や言葉が差し伸べられていたのに、今は赤ちゃんを抱っこしていたり、泣いている赤ちゃんに忙しく関わっていると、声が掛けにくくなったり、自分で何とかしようとする子もいるでしょう。
ですが、そんながまんは続きませんね。
弟や妹が生まれてから、少し時間が経ってから赤ちゃん返りが始まる子どももいます。
兄弟姉妹が生まれた場合だけではなく、親戚の集まりで自分よりも小さな子どもに会ったとき、友だち家族と過ごしたとき、イベントなどで小さな子どもをたくさん見たり関わったときなどに、突然子どもが赤ちゃん返りをすることがあります。
一人っ子であっても、兄弟がいても、同様です。
自宅の引越しや保育園・幼稚園などへ入園したとき、両親の離婚や別居など、子どもにとって大きく環境が変化したとき、不安や緊張を表現する方法として赤ちゃん返りをすることがあります。
赤ちゃん返りをするほかにも、話さなくなったり乱暴になったりして不安を表現する子どももいます。
赤ちゃん返りは、自立の始まっている子どもが赤ちゃんのような振る舞いをし、保護者の気を引きたい気持ちの表れです。
それは、保護者を信頼しているからこそ。赤ちゃんのようになったり甘えたりしてもパパやママなら受け入れてくれるという信頼している気持ちや安心感があるから「赤ちゃん返り」という方法で「気持ちの揺れ」を表現しています。
甘えるだけではなく、聞き分けが悪くなったり、泣き止まなかったり、外出先で大声で泣き叫んだり、保護者に乱暴するなど、子どもによってさまざまな「赤ちゃん返り」の形があります。
保護者にとってストレスでしょうし、「また?」というようなうんざりした気持ちになるでしょう。外出もままならず、人目も気になり、買物さえゆっくりできない、自分の時間を子どもに独占されるストレスは、計り知れません。
ただ、子どもが赤ちゃん返りをする根底にある気持ちは、保護者への信頼の表れです。保護者に甘えたり、認めてもらいたい、独占したい=パパやママが大好き、という気持ちであるということを、心のどこかにとどめておいてあげてくださいね。
保護者に自分を見てほしい!受け入れてほしいと強く思う子どもに対し、大人はどのような対応をするのがベストなのでしょうか。
もしかしてこれは「赤ちゃん返り」かな?と感じたら、以下のような言葉がけは避けましょう。
「できないーやってー」→「いいよ。靴下をはかせてあげるよ。もうひとつは●●ちゃん履けるかな?」
(愚図るなら全部保護者がやってあげてもOK)
「ママ、牛乳飲みたい。」→「わかったよ。オムツ取り替えたらでもいいかな?」
(それでも今すぐにしてほしがったら、赤ちゃんのお世話をストップし、してあげる)
「ママ抱っこして」→「いいよ、おいで!」
(赤ちゃんの授乳中であっても子どもを抱き寄せたり体を引き寄せる)
「いやだいやだ!」と外出さきなどで泣き叫ぶ→「イヤなんだね。そうか。おうちで飲む冷たいジュース買って帰ろうか」
(一旦受け止めてから、視点を変えてあげる)
何度かのうち、時々こんな事ができると、きっと子どももそして、ママもほっとすることでしょう。
新生児期から1歳くらいまでは、1人の子どもの育児でも大変な忙しさだったことでしょう。2人の子どもを育てているパパやママでしたら、本当に息をつく暇もないほどの毎日ですね。
子どもが何人であっても、日々のお仕事や子育てに毎日クタクタなママ・パパも多いもの。
そんな毎日の中ですが、子育ては日々の積み重ねが大切だといわれています。とはいえ、毎日ずっとスキンシップをしたり遊んであげることはむずかしいものです。
ただ、コミュニケーションには色々な方法がありますね。例えば、
ですが、同じように抱っこやおんぶができなくても、さまざまな方法で保護者から上の子に関心を持ち、常に気にかけているとことが伝わるよう、コミュニケーションを取りましょう。
「赤ちゃん返り」の中には、甘えのほかにも、大声で泣いたり、泣き止まなかったり、保護者に対して殴ったり暴言を吐くなどの行為もあります。
これは不安定に揺れる心を保護者に伝え、わかってもらいたいという表現の一つです。保護者を困らせようとしているわけではなく、受け入れてもらいたいという心の表れなので、叱ったり、怒鳴ったり、同じように暴言を子どもに吐いたり叩くようなことはしないようにしたいですね。
そうは言っても、そんな子どもの姿を見ると、パパやママは悲しく切なくなったり、イライラしたり怒りが湧いてくるかもしれません。外出先なら人目も気になることでしょう。
大切なのは子どもの心を受け止めてあげること、安心させてあげることです。怒ったり責めたりすることは、親子の信頼関係が崩れ、余計にこのような行為が長引くこともあります。
少しの間で良いのでそばで黙って見守ったり、背中をさすってあげたり、飲み物を渡してあげるなどして、寄り添ってあげましょう。
赤ちゃんの生まれたご家庭の上の子どもが赤ちゃん返りをしている場合は、赤ちゃんと上の子の寝かせる時間をずらし、上の子には眠る前の時間に絵本を読んであげたりおしゃべりをしたり、赤ちゃんにナイショね!と、花火をしたり夜のお散歩をしてみるなど、パパやママを独り占めできる時間を作ってあげましょう。
これも毎日でなくて構いません。できるときだけでいいのです。
自分だけのパパ・ママとの時間は、上の子どもにとっては宝物です。また、そうして心が満たされることで赤ちゃん返りのおさまりが早くなったり、赤ちゃんをかわいがったり、ママやパパが赤ちゃんのお世話で忙しそうなら、なんとか自分で自分のことをしようとしたりと、本当のお兄ちゃん・お姉ちゃんとしての成長が見られるようになります。
また、子どもが1人の場合も同じです。仕事や家事が忙しくなかなか子どもとかかわる時間が持てないと思いますが、時には子どもだけのパパ・ママになって子どものための時間を作ってあげましょう。
眠る前の短時間で大丈夫。無理なく、楽しく、穏やかに過ごせる時間が持てることは、パパやママから子どもへの愛情もさらに高まることでしょう。
心が不安定な赤ちゃん返りの時期は、保護者の対応を同じにすることで
家庭内で、子どもの今の様子や現状を話し、子どもに対して同じ対応ができると良いですね。例えば愚図ったり泣き止まないときは、叱り飛ばしたり責めたりしない、甘えてきたときはできる限りスキンシップを取るなど、確認し合っておくことで、保護者同士のストレスもなく過ごせます。
さらにできることならお休みの日は1時間でも良いので、一人の時間を持てるよう協力・話し合いができるといいですね。
子育てや家事・仕事に疲れていると、どうしてもイライラしてしまいがちです。そういった家庭の様子を子どもは敏感に察知します。それがまた不安な心へとつながってしまいます。 子どもの心の健康、保護者のストレス解消のために、家族で話し合う習慣を持ちましょう。
紹介しきれなかったことや、筆者が保育士として関わった「赤ちゃん返り」をしていた子どもをご紹介しながら、さらに様々な事例をお話します。
子どもの成長や子育て環境に個人差があるように、「赤ちゃん返り」がおさまる時期にも個人差があります。
1か月程度の子どもから1年以上続くこともあるでしょう。おおよそ3歳から4歳の子どもに多く、小学校へ入学する頃までには減少します。
「赤ちゃん返り」はおやこで辛い時期かもしれませんが、必ず終わりがくるので安心してくださいね。
「赤ちゃん返り」は、赤ちゃんが生まれて長男・長女になったことが原因で起きることが多いのですが、一人っ子でもします。
それは成長過程において必要なことであり、「自分で!」と言っていた「イヤイヤ期」が収まり少し自立した頃だったり、小学校入学前だったり、引越しや入園など環境の変化だったり、保護者の仕事や家事・介護などが忙しく子どもと関りが減っているときだったりします。
子どもの周辺環境に変化がなくても成長の過程だと受け止め、寄添ってあげましょう。
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「赤ちゃん返り」が一日も早く収まってほしい! 保護者の皆さんの願いだと思います。 子どもの持って生まれた性格や子育て環境、保護者の関わりによって収まる時期は個人差がありますが、やはり子どもの「甘えや依存心」を受け止め、おやこの信頼関係を壊すような否定的な態度を取らないことが収束の一番の近道でしょう。
子どもとは、本来自ら成長していきたいという意欲を持っているもの。その本来の成長したいという意欲を取り戻すためには、見守られている、安心できる居場所があるという土台が必要になります。それが保護者とのかかわり、穏やかな家庭環境です。
いくら保育園や幼稚園で愛情をかけても、保護者の愛情には到底かないません。赤ちゃん返りからの成長は、保護者との安定した関わりと受容が大切です。
赤ちゃんのいる生活に少しずつ慣れてきたら、上の子とスキンシップを取りながら、ママやパパと一緒に哺乳瓶に手を添えてみたり、オムツやおしりふきを取ってきたり、おもちゃであやしてあげたりしながら、赤ちゃんのかわいらしさに気づかせてあげましょう。
「かわいいね、●●ちゃんも赤ちゃんのお兄ちゃん(お姉ちゃん)だね」と言うのはNG
子どもが赤ちゃんと触れ合い、人として生まれ持つ小さな存在への愛情に目覚めさせてあげることが大切であり、かわいさやお兄ちゃんになったことを強要することはやめましょう。
子どもが保護者にしっかり受け入れてもらい、赤ちゃんの大切さや愛おしさ、家族が増えた喜びに自ら目覚めれば赤ちゃん返りは自然と無くなっていくでしょう。
上の項目でも触れましたが、「もうお兄ちゃんだから」「お姉ちゃんなんだからそれくらい自分でやってよ」と言うことは避けましょう。
子どもは自らが目覚め、時間をかけながら成長し「お兄ちゃん・お姉ちゃん」になっていくのです。周りがいくら言っても急になるわけではありません。
そのような言い方を続けていると、「お兄ちゃんってガマンばかりだな」「お姉ちゃんってイヤだな」「赤ちゃんなんてかわいくない。」「赤ちゃんなんて来なければよかったのに」と、少なからず感じるでしょう。
ちなみに筆者は2人の子どもがいますが、次男が生まれてから3年以上、長男のことを「お兄ちゃん」と呼んだことはありませんでした。子どもそれぞれの名前で呼び、1年から1年半ほどは、長男を優先して育てました。
次男が泣いていてもお布団に寝かせ、長男のしてほしいことに応えました。少しの間のことですから、すぐに次男のもとへ戻り、また長男の要望に応える、その繰り返しでした。
今、高校2年生と中学2年生になる兄弟ですが、お互いがお互いのしてほしいことやお願いに快く応えてあげられるようになり、兄弟仲も大変良いです。
赤ちゃんは、どうしても大人の手が必要です。ですが、上の子どもは大人の手も心も視線も全てが必要な大切な時期であったこともそうさせた要因です。
上の子どもが保護者を必要としている「ここぞ」というときを見逃さず関わることで、「赤ちゃん返り」をすることなく、あっという間に2人は成長していきました。
そうはいっても、子どものすべての要望には応えきれないですし、そうしてしまうと保護者が疲弊しきってしまいますね。
どうしてもできないときは、「今はできないけれど、長い針が10になったらね」「赤ちゃんが眠ったらするからね」とできない理由を話し、「さっきはできなくてごめんね」と謝りましょう。
今はできないよと言っても納得しないときは、短い時間で構わないので要望に応えてあげましょう。
どうしてもしてはいけないことや周囲の迷惑になるとき(外出先で暴れる・泣き叫んで収まらないなど)周囲にも迷惑がかかることもあるので、抱きかかえて危険のない場所へ移動するか、落ち着くまで近くで黙って見守りましょう。
それから、冷たいジュースを買いに行こう、アイス買って帰ろうか、など視点を変えてあげます。
いずれにしても、大人が一緒になって感情的にならないこと、投げやりになったり否定したり責めたりしないことです。そういった関わりを重ねていくと、子どもに対して否定的な言葉をなげかけることに対し、何も感じなくなっていくものです。また、子どもも傷つくことに慣れてしまい、心が枯渇します。その結果、成長にも影響が及ぼされる可能性もあるのです。
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子育ては本当に大変なことの繰り返しではありますが、その時期を大切に育むこと、見守り寄添うことが将来の子どもの姿や、子どもが人とかかわるときの社会性、人を思いやる心などにつながっていくものです。
近年、人とのかかわりが小学生から希薄になりつつあり、SNSの発達で人間関係やコミュニケーションの取り方も変わってきました。
忙しい中思いを巡らせるのは大変なことですが、将来子どもがどんな人になってほしいのか、時には考えながら子育てをしていくと、おのずと子どもへの関わり方が変わってくる気がします。
炭本まみ
保育士として10年勤務し、今は高校生と中学生を育てるママ。未だに子育てに行き詰ることはありますが子育てのアドバイス記事を書きながら自分も振り返っています。趣味はキャンプと旅行とカメラ。アウトドア記事や旅行記事、保育士や保護者向けのコラムを執筆中。