新しい家族が増えるのは幸せで楽しみなこと。でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんになる子どもにとっては、ちょっぴり不安な気持ちもあり、ときにSOSのサインとなって表れることも。
そんな気持ちを抱えて頑張っているわが子を、大人はどう受け止めて挙げるのがよいのでしょうか。「森のようちえん さんぽみち」の園長"のんたん"こと野澤俊索さんに教えていただきました。
私の園での出来事です。朝、登園してきた4歳の女の子がお父さんと離れられなくて、抱っこしてずっと泣いていたことがありました。いつもは元気におはよう!と登園する子なのに、ずっと泣き止まないので、お父さんも「お願いします」と託すように先生にその子を預けて帰っていきました。
実は、この子のおうちには、最近赤ちゃんが産まれたのです。その子は、お姉ちゃんになってうれしい気持ちやがんばる気持ちをもっていましたが、一方不安な気持ちや心配な気持ちもあって、ちょっと不安定になっていました。
お父さんに話を聞くと、おうちではおねしょが増えたり、急に泣いたり、聞き分けがなくなったりしているとのこと。こういう状態を「赤ちゃん返り(一時的退行)」といいますね。
赤ちゃん返りしている子どもは、わがままやかんしゃくを起こしたり、強い甘えを求めてきたりします。子どもたちはまるでお散歩してきた道を戻って落とし物を探すように、自分の成長してきた道を少し戻っていきます。 そして”自分はここにいるだけで価値のある存在なんだ”と確かめようとしているのです。
赤ちゃんのように甘えたり泣いたりすることで、もう一度そのままの自分を受け止めてもらえるかを確認しています。そして自分を受け止めてもらえたとき、自信をもって再出発できるのです。
子どもたちは産まれてきてから今まで、無条件の愛を受けてきました。そしてそれは、ありのまま、自分のままでここにいることへの強い自信となって表れます。
ところが、子どもたちはその愛をときどき見失うことがあります。産まれた赤ちゃんにおうちの人の愛が向いているのを見たときに、ちょっと心配になります。お泊まりをしておうちから離れたときにも、ちょっと心配になります。
園へ行くときも、離れたくない気持ちが強いとやっぱり心配になります。そのとき、子どもたちが感じているのは"自分の気持ちとのずれ"です。そんな気持ちを持ったとき、おうちの人のもとへ帰ったら、今度は愛を確かめたくなるのです。それが赤ちゃん返りです。
もう少し成長すると、気持ちと行動がずれたとき赤ちゃん返りではなく、すねたりすることがあります。うまくいかないことや、気に入らないことが起きたとき、子どもたちはすねて愛を確かめようとします。 こんなふうにうまくできない自分なのに、本当に愛されているのだろうか?という心配な気持ちがふくれ上がるのです。
でもそのことに子どもたちは気づいていません。そのため”すね”はいろいろな行為として現れてきます。ものを投げたり、かんしゃくをおこしたり、動かなくなったり、泣き叫んだり。
このときに大切なことは、「気持ちはしっかり受容して、問題のある行為は許容しない」ということ。子どもたちはすねることで自分を見てほしいと思っています。自分にかかわってほしいと願っています。
でも、その根底には自分に対する無条件の愛を確かめたいという欲求があるのです。つまり、「すねると見てくれる」のではなく「すねなくてもちゃんと見てくれる」ということが子どもに伝わることが大事なことなのです。
人間は自分の気持ちをもとにして、感じたり考えたりすることしかできません。幼児の場合、それがもっと強くて、気持ちと行動がずれていくとき自分の存在そのものが揺らいでしまったりします。
そんなとき「自分はありのままで価値のある存在なのだ」ということを何度も確かめて確信していく必要があります。そのとき、気持ちをしっかりと受け止めてもらうことが子どもたちの大きな自信になり、自分で気持ちを立て直していく力に変わっていくのです。
※写真はイメージです
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。