図書館では静かにする、植え込みに入ってはならない、道路で遊ばないなどなど…世の中にはさまざまなルールやマナーがありますよね。
幼児期からルールや決まりをきちんと守ることができることは素晴らしいこと。
それらの決まり事を教えるのは大人の仕事ですが、ときに幼児期になるとそのルールを他人にも強く押し付ける場合があります。
わが子が「●●●しちゃいけないんだよ!」と、ルールを守れていない子に声をかけているのをみていると成長したなと思える反面、それが年上の子やあまり親しくない子の場合、逆に無視されたり反発されたりとトラブルになる可能性もゼロではありません。
大人になれば相手によって角が立たないように注意のしかたを変えたり、自分が注意することでトラブルになることを察知して他の手段を使うことができますが、幼児期のうちはなかなか難しいもの。
正しいことを否定はしたくないけれど、協調性も身に付けてほしい…そんな親の悩みに「ちいさなたね保育園」の安江文子園長がお答えします。
正義感が強く、さまざまなルールを守れることは親にとっても誇らしいことですね。
そんな子どもがルールから外れたことをしている子に注意をしたりするのは、子どもたちの社会のなかではよく見られる光景です。
たとえば…
などの場面があります。
道徳的な感情が育っていて、それを口に出して言えるのはよいことですが、「注意した相手を泣かせてしまう」「〇〇には関係ないと言われてしまう」「無視される」などうまくコミュニケーションができていないと感じる場面もよくあります。
さらには注意したことで逆に叩かれたり手を出されてしまうなどトラブルになるということもあります。
注意することでのトラブルは避けたいものの、言っていることは正しいのでその気持ちを否定したくはありませんよね。どのように対応すればいいのでしょうか?
まず「そういうことを言うものじゃない」など子どもの正義感を否定するような言葉はNG。
普段大人からルールを守ろうといわれているのなら、なおさら「自分は守っているのになぜ他の人はいいの」「正しいことを言っているのになぜ自分が非難されるの」と思うことでしょう。
大人から見れば世の中にはグレーなことも多々ありますが、幼児期の子どもには理解は難しいです。
まずは正しいことを言えたことを認めて受け入れてあげましょう。
そして「ルールを守れるあなたはとても素晴らしい」ということを前提に、それを周囲にも求める前に一旦立ち止まって考えてみることが必要だと教えてあげてください。
他人に注意をするときに気をつけなければいけないこと、それは子どもも大人も「相手はどう思ってそれをやっているか?」ということですよね。
ルールからはみ出している場合、本人に悪気があった、悪気はなかったという2つのパターンが考えられます。
前者に対して共感することは難しいですが、実際はそれぞれに事情があって、悪気がなくてもやってしまう人もいますよね。
幼児期のこどもにその背景をイメージするのは難しいのですが、年中くらいになってくると「なぜそんなことをしたのか、相手にも理由がある」ということを少しずつ想像できるようになってきます。 そんなときは
など「相手の立場に立ったらどうか?」「もしかしたらこんな理由かも」とイメージさせてあげましょう。
正しいかどうかではなく、相手はどう思ってそれをやっているか?に焦点を当てると相手を何でもかんでも注意したり、強く非難したりするという行動は減ってくるでしょう。
相手の気持ちを想像したうえでも、ルールから外れていることを黙っていられないという場面に遭遇することもあります。
いっぽう、正義感の強い子の黙っていられないという気持ちも理解できますよね。そこでルールを守れていない人を見つけたとき、自分で注意する以外に「大人に相談してみる」という方法があることを伝えてあげてください。 その子の親、自分の親、先生、その場にいる第三者など、大人から注意してもらうことで子ども同士のトラブルに発展する可能性はグンと下がります。
とくに川や海のそばや、交通事故に遭いそうな場所で命に関わったり大けがをしたりするような危ないことをしていたら、すぐに大人を呼んで注意してもらうことが必要です。
また、大人が注意するときには、相手の子どもに対して共感しながら話かけてみてください。
「疲れてるからおもちゃ片づけるのいやになっちゃうよね、でも遊びたい人がいるから片づけよう」や、「たまたま振り向いたら手がぶつかっちゃったんだよね、でも痛かったのは本当だからごめんねしようね」など気持ちを代弁するようにしながらルールを守れるように促しましょう。
もし子どもが自分で解決できそうな場面では、言い方がキツくならないように伝えるのがポイント。
子どもは語彙も少なく、ヒートアップしがち。たとえば高いところに登る子どもがいたとして
「いけないんだよ!」「やめなよ!」
と強い注意をくり返しがちです。 それよりは
「危ないから降りようよ」「ケガするよ」
というように「ルールを守れないからいけない」ではなく「ルールを守らないと大変な思いをすること」を考えてあげられるようになると、受け取る側も素直に受け入れやすくなります。
「誰々がこんなルール違反をした」と先生や大人に相談してばかりいると、逆にそれに目をつけられて仲間外れにされたりいじめられたりしないか不安な気持ちもあります。
未就学児や小学校低学年であればいわゆる「チクる」という概念がないので、「言いつけた」ということでいじめられたり、仲間外れにされる心配はほとんどありません。
小学校中学年〜あたりからはそういう傾向はありますが、いろんな経験を積んでいくなかでは、何でもかんでもすぐに言いつけるのではなく「これは先生に相談すべき」「これは自分でも解決できること」と判断ができるようになっていくでしょう。
親や周囲に頼りつつ、幼児期から相手の気持ちを考えることを何度も繰り返していくことで生まれるのが思いやりの心。正義感を持ちつつも、相手に対して思いやりの気持ちで接することができるようになればいいですね。
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ルールを守りたいという気持ち、正義感はとても大切な気持ち。
そんな子どもたちが「自分の正しいと思う気持ちを言ってはいけない」と思わないように親も共感したうえで、トラブルにならないような対応策を教えてあげたいですね。
ちいさなたね保育園・施設長 安江文子
横浜市で子育て支援を行うNPO法人びーのびーので、子育て広場などの勤務を経たのち、2015年より保育園「ちいさなたね保育園」で園長(施設長)を務めています。子どもへの温かなまなざしを持ったアドバイスが魅力です。
ライター 松永あつこ
目が合うと即座に変顔をしてくれる5歳と、ごはんは口に運んでもらう主義の3歳の女の子のママ。主に育児・教育系メディアの編集&ライターをしています。趣味はファミキャン!将来の夢は家族でオーロラを見に行くことです。
正義感の強い子どもは他者にもルールを守ることを求めるので、それゆえトラブルになるという悩みをよくききます…。