お散歩に出かけると、先のとがった長い木の枝を見つけてきたり、高い塀に上りたがったり…。子どもはなぜ、よりによって親からすると「やめてほしい」と思ってしまうことにばかり興味をもつのでしょうか。
野澤俊索さんが園長をつとめる「森のようちえん さんぽみち」は、園舎をもたず毎日森に出かけ自然保育を行っています。その経験から紐といていただきました。
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「そんな小さい子を森につれていって危なくないですか?」とよく聞かれます。
たしかに森に行くと子どもたちはあちこちに興味をもって動き回ります。その結果、危ないことがあってヒヤリとしたり、ケガをしたりしてしまうこともあります。
ケガだけではなく、環境や動植物の危険もあって、虫刺されやかぶれ、熱中症や低体温症の危険などもあります。
「外に出る」ということは、それだけで少なからず危険にさらされることです。安心安全な自分のおうちや保護者の側から離れていくことを、子どもたちにとっての「冒険」と呼びます。
そんな"冒険"に出るとき、子どもはドキドキした気持ちやワクワクした気持ちを味わいます。何度も外に出て、いつかその"冒険"が何でもないことに変わったときに、その子は少し成長したのだととらえることができます。
木登りをしたとき、経験と共に少しずつ登れる高さが上がっていくように、自分の成長と共に安心できる範囲は広がっていきます。
私たちが子どもの行動を見ていて「あぶない」と思うのは、その行為が子どもの能力の限界を越えそうだからではないでしょうか。
高い木に登ったり、木の枝を振り回したりしていても、木登りに長けていたり、しっかりした判断ができたりするなら、比較的安心して見ていることができるでしょう。
子どもが自分の能力の限界を超えていこうとするのは、自分の力を試し、成長していこうとする向上心の表れです。自分の枠を超えて外に出ようとするのはまるで、殻をやぶって出ていくひな鳥がもがいているよう。子どもたちは転んだりすべったり、そんな”冒険”をくりかえして、成長を手にします。
ある日、自分の体の何倍もある大きな竹の棒を見つけた子がいました。その子はその竹を森の奥から抱えるようにして引っ張り出してきました。
一生懸命持ってきてみんなに見せたのですが、その竹は大きくて帰りの車には乗りません。そこで先生は、「これを見つけたんだね。自分で持ってこれたね。でも、今日は車で持って帰れないから、元のところに返しておいで」と言いました。
その子はもう一度竹の棒を抱えて、よいしょよいしょと森の奥に入っていき、元あったところに置いて帰ってきました。帰ってくるとき、その子の顔はひと仕事終えたあとのようにスッキリして自信に満ちてるように見えました。
赤ちゃんを見ていると、危なっかしいと思うたくさんのことがあると思います。
たとえば赤ちゃんが初めて自分の足で立ったとき、親はそのまま後ろに倒れないかハラハラしながら見守るのではないでしょうか。そして初めて立ったことに喜びを感じると思います。そしてその時、赤ちゃんもきっと同じ喜びを感じているはずなのです。
「あぶない」と思うことを止めないで、「がんばれ」と見守ることはこういう気持ちに似ています。そして、危なっかしかったこともいつの間にかできるようになって、子どもたちは自らの力で成長していくのです。
子どもは転んだり傷ついたりしながら自分の枠を越えて成長していきます。そこには、ケンカや失敗などの”心の傷”も含まれます。「危険な遊び」には、このように心を育てるきっかけが多く含まれているものなのです。
川に行ったときに「入ってもいい?」と聞く子どもに「いいよ」というと決まって目を輝かせます。その子は「いいの?!」と言って喜んで水に入ります。その時に大人は、溺れる心配がないか、その他、命に危険が及ぶことはないかをよく見て、子どもの様子を観察しています。
子どもたちにとってそれが「危険」であるか、それとも十分に安全を保てる「冒険」であるかは、そこにいる子どもたちを見守り、環境を配慮する大人にかかっています。自分の枠を超えた冒険では、子どもたちには判断がつきにくいことがあります。そんな時は見守る大人がしっかりと制していくことも大切なことです。
(※事故や大けが、いのちにつながる行為はしっかりと止めることが必要です。)
危険は、成長につながる冒険かもしれません。
赤ちゃんが自分の足で立った時のような、できた!という感動や、見つけた!という喜びがそこに隠れているのなら、一緒に味わってみるのがいいと思います。
大人も子どもと一緒に外の世界の冒険にでかけて、ゆっくりと見守ってみるのはいかがでしょうか。
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。