凹む、心が折れる、メンタルやられる…そんな言葉をふだん大人も使いますよね。
これから先の未来、きっとわが子もそんなストレスから逃れることはできない…そこから立ち直って強く生き抜く力を身につけなければならない。それを認識している親御さんは多いのではないでしょうか。
大人でも難しい、"強い心"をもつこと。どうしたらわが子に育てることができるのでしょう。
自分と向き合う力、高める力も非認知能力。非認知能力研究の第一人者、岡山大学の中山芳一先生にお伺いします。
A子さんは、ずっと親の期待に応え続けてきました。県内屈指の進学校へ進み、難関大学へ入学…。卒業後には誰もが知っている有名企業へ入社が叶いました。
A子さんが結果を出せば、親は喜び、「さすがA子!」とほめてくれ、結果が出なければ「うちの子じゃない!」と拒否されてきたA子さん…。なんとか親御さんの期待通りの人生を歩み続けていたわけです。
ところが、新卒1年目のことでした。A子さんはちょっとした失敗を社内でしてしまい、上司の方から軽い注意を受けたそうです。その次の日、A子さんは会社へ向かうことができなくなりました。22歳の夏のことでした。それから20回近くも夏を迎えましたが、彼女が会社へ行くことはなかったそうです。
彼女は言います。「失敗したら、私の価値はなくなるんです…」
22年間、親の期待を一身に受け続け、いつも結果を出すことにだけ価値を見出してきた彼女の「心」は、ほんのわずかな失敗によってポキッと折れてしまったのでしょう。
コップに半分の水が入っている状態を見て、「半分も水が入っている」ととらえるのか「半分しか水が入っていない」ととらえるのか…というお話をご存知ですか?
これで、その人が楽観的な人か悲観的な人かがわかるわけです。コップに半分の水が入っているという事実は変わらないのですが、そのとらえ方は変えることができるということですよね。
A子さんは「成功」にしばられ続け、いつも「半分しか水が入っていない」自分をつくってしまったのでしょう。その結果、一見強そうな「角材のような心」は、ちょっとした衝撃でポキッと折れやすくなってしまった…。もっと柳や竹のような心が彼女にあったなら、「失敗」に見えることでも、それを受け入れて「成功の途中」ととらえ直すことができたのかもしれません。
そもそも、何が成功で何が失敗かなんて、自分自身で決めることなんですから、自分の中にしなやかなとらえ方ができるようになっていればよいわけですね。
これからの時代は「正解」がないってよく言われます。この正解というのは、ゲームでいうところの「必勝テク」みたいなものでしょうか。つまり、高校~大学~就職という各ステージを順調にクリアしていけば、ほぼほぼ人生を間違うことはない(いわゆる「勝ち組」)…ってことです。
しかし、これからの時代は「必勝テク(=正解)」なんてありません!現在のコロナ禍がそのことを私たちに教えてくれていますし、それ以前からもAI(人工知能)などの関係から言われてきました。うまくいかないこともある、想定外のことも起きる、翌年には世界が一変することだってあり得るでしょう。
そんな時代にこそ求められるのが、いろんな状況の中であっても折れることのない心の強さではないでしょうか。だからこそ、いろんな状況で起こった出来事をしなやかにとらえられる頭が必要不可欠なのです。
みなさんも、みなさんのお子さんも、ぜひ「しなやかな頭」になるためのトレーニングをしてみてください。と言っても、そんなに特別なトレーニングは必要ありません。ふだんのくらしの中で、少し意識してみませんか。それだけで、きっとみなさんの頭はしなやかになることでしょう。
次回から、そんなしなやかな頭づくりのきっかけになりそうなメニューをご紹介していきます!
岡山大学准教授 中山 芳一
1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。