連載
のんたんせんせいの自然エッセイ

やり遂げる力、挑戦する意欲、失敗から学び立ち直る力…親が子どもをゆったり見守ることの大切さ

やり遂げる力、挑戦する意欲、失敗から学び立ち直る力…親が子どもをゆったり見守ることの大切さ
非認知能力と子どもの自然体験をテーマに、兵庫県西宮市で野外幼児教育を実践する「森のようちえん さんぽみち」の園長、野澤俊索さんに自然と子どもたちの関わりの大切さを語っていただく連載エッセイ。今回は「子どもの自然遊びを親はどう見守るか」について。
目次

森そのものを"園舎"とし、森での自然体験活動を保育の基軸とする兵庫県西宮市の「森のようちえん さんぽみち」。"のんたん"こと園長の野澤俊索さんは自然の中での遊びは生きていくうえで必要なさまざまな「非認知能力」を伸ばしていくといいます。

自然遊びで子どもたちがいろいろな成長を遂げる傍らで、親は何をしたらよいのでしょうか。

自然の中で遊ぶと人は自然に大きくなる

「ここにくると、飽きないでずっと遊んでいるんです」
子どもと一緒に森で遊んでいたとき、あるお母さんが言いました。

子どもは小さな崖に手をついて、たまに滑り落ちながら一生懸命登っています。そして登りきると、ぐるりと木の向こうを回ってズルズルとお尻で降りてきます。これをひたすら繰り返したら、今度は広場の方へ行って落ち葉を集め始めました。

遊びに夢中になっている子どもの目は輝き、それをそっと見守っているお母さんは柔らかくて穏やかな顔をしていました。

子どもたちの心が満ち足りた時、その遊びはおしまいになって気持ちは次へ向かいます。向かった先に興味の湧くものがあれば、そこで次の遊びが始まります。

遊びはいつも子どもたちの心の奥から湧き上がってくるものに突き動かされて始まります。それは子どもたちの遺伝子に組み込まれた本能といっても過言ではないでしょう。

ゆっくりと時間が流れ、生命にあふれている自然は、いつも変化しています。
ひとつひとつ手触りも温度も重さも違う自然の物を使って遊ぶと、子どもたちの手にはひとつひとつ違う感触が残ります。

木の葉が揺れて音がしたり、落ち葉が風に吹かれて舞ったり、突然日が陰ったり、コオロギの鳴き声がしたり。そこにいると、子どもたちの感覚には様々な自然が働きかけてきます。

風に飛ばされる落ち葉を見て、「葉っぱが追いかけっこしてるよ」
太陽が雲に隠れたら、「はずかしいって言ってるんじゃない?」

自然の中で起きる出来事は子どもたちの目にはこんな風に見えていて、子どもたちの生きている"世界"と真っすぐにつながっています。

自然の物を使った遊びには、これといったきまりがありません。木の枝も石も、どうやって使うか、どうやって遊ぶかは子どもたちにお任せです。

ルールも説明書もない遊びだから、それを考えるのも子どもたち。上手くいかないことを引き受けて、工夫するのも子どもたちです。

そんな自然遊びを通して、自分で考える力人とやりとりする力一つのことをやり抜く力粘り強さ発想力創造性挑戦する意欲などが育まれていきます。数値化できず目に見えないこんな力を「非認知能力」と呼びます。

自然の中の遊びは、たくさんの感覚刺激にあふれ、子どもたちの好奇心をくすぐり心躍らせる一方で、たくさんの"失敗"を保障してくれます。

遊びの中で上手くいかないことが起きたら、泣いてしまうこともあるでしょう。それも子どもたちの心にはしっかりと残ります。

「思い通りにいかない経験」をしているとき、人間の脳のうち"感情のコントロール"を司る前頭前野というところが活発に働いているという研究があります。
これを繰り返すことによって前頭前野の発達が促され、子どもたちの成長の大きな糧となっていきます。

私たち大人は、子どもたちのするたくさんの"失敗"を、「そういうものだ」とゆったり構えて見守るとよいでしょう。

「手は後ろ、お口にチャック、目はお皿、耳はダンボ」という言葉があります。
失敗に先回りして止めたり、声をかけしたりしないで、子どもの姿をよく見て、声を聞こうということです。

そんな大人の存在は、子どもたちにとって大きな心の支えになります。
失敗を繰り返すことを認められ、いつかできると信じて待ってもらえた経験は、子どもたちの大きな自信となり、もう一度やってみようという意欲を生み出します。これは、大きくなった時に"失敗から学び立ち直ろうとする力"に変わっていきます。
これも生きていく上で大切な非認知能力のひとつです。

自然の中で遊ぶと、自然に人は大きくなります。遊び方など難しく考える必要はありません。

さあ、自然の中(外)に出かけてみましょう。

都会でも自然公園や河川敷に自然は残っています。
子どもたちは自ら、土の上を歩き、草花に触れ、そして転んだり濡れたり滑ったり、うまくいかない遊びを本当に楽しそうに繰り返すことでしょう。
そしてその傍らで、ゆったり微笑み見守ってくれる大人がいることに安心すると、子どもたちはその遊びに没頭していくのです。

子どもの自然遊びを親は"ゆったり見守ろう"

  • 子どもがその遊びに満ち足りるまで、時間を気にせずゆったり見守る
  • うまくいかないことや失敗があっても、「そういうものだ」「いつかできる」とゆったり見守る
  • となりで笑顔でゆったり見守ることで、子どもは安心して遊びに没頭できる
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執筆者

森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索

NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。

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