近年、よく耳にする「食育」という言葉。子どもの成長と切っても切れない食事について、強い関心を持つママ・パパも多いはず。そんな食育について、保育園ではどんなねらいを持って取り組んでいるのでしょうか?
元・保育園の栄養士でライターの砂糖さおりが保育園で行う食育のねらいや内容、おうちで取り組めることをご紹介します。
農林水産省により2015年に制定された食育基本法では、食育について以下のように位置付けられています。
食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。
食育はあらゆる世代に必要なものという前提に立った上で、特に子どもにとっての食育は、心身の成長や人格の形成に大きな影響を与え、生涯にわたって健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものとして重要視されています。
厚生労働省の定める「保育所保育指針」では、食育とそのねらいについて以下のように位置付けています。
食べること、そして食事を仲間と楽しみ合う子どもへの成長を目指し、子どもの成長を踏まえたさまざまな食体験ができる保育が目指されています。
また保育所では食育計画を作成し、保育士、栄養士、調理員など専門職が連携して、創意工夫をしながら食育を進めるよう定めています。
成長著しい乳児~幼児期の子どもたちに向けた食育は、その年齢によってねらいが変わってきます。年齢別に見る食育目標は以下のような内容となっています。
6カ月未満の子どもはスキンシップを通して保護者・保育者との絆を深める時期で、授乳も食育の一環となります。授乳時間は子どもを抱いて、目と目を合わせる時間を取りましょう。
6カ月以降は離乳食が始まる子どもが多く、食べる機能が「吸う」から「噛んで飲み込む」まで飛躍をとげる時期です。離乳食が進むにつれて色んな食べ物や道具(カトラリー類)を自ら持って食べようとするため、時に大人を困らせることもあるかもしれません。しかしそれらは食事に興味関心を持ち、認識する大切な過程となるため、じっくりと見守ってあげたいところです。
1歳ごろは自我の芽生えや身体能力の発達とともに、「食べさせてもらう」から「自分で食べる」へ進む時期です。手づかみ食べから道具を使うようになり、一口量を自分で調節するようになります。食事の前後や汚した時に顔や手を拭く快さを学び始めます。
またいっしょに食べたい人を選ぶなど、食が人との関わりに広がっていく時期でもあります。引き続き子どもの食への挑戦を見守りつつ、「甘いね」「柔らかいね」など五感を意識する声がけをすることで、食体験をアシストできます。
自己主張が一層強くなるこの時期。好き嫌いがはっきりとし、食欲にムラが出てくる年齢でもあります。ほかにも食事に集中しない、時間がかかるなどママ・パパの悩みはどんどん増えてくるかもしれません。
食の悩みは年齢と共に解消されていくものですが、まずは食事の時間を「準備・食事・片付け」の流れに基づいて整えましょう。家族・友だちとテーブルを囲むことは集団生活の経験となります。食事のルール、誰かといっしょに食べる楽しさを学び始める時期です。
3歳以降になると乳歯が生えそろい、カトラリー類の扱いにも慣れ始める年齢になり、会話を楽しみながら食べるなど、より一層食事に社会性の意味合いが強まってきます。
郷土料理などの食文化や栽培・飼育体験を通じた食といのちのつながりへの気づきなど、子どもにとっての食の意味合いはどんどん深まっていきます。片付け係のような役割を与えたり、台所でのお手伝いを通して協力する心地よさや達成感を学びます。
まだまだ味覚学習の過渡期でもあるので、「サクサクしているね」「冷たくてちょっと甘いね」などの声がけは引き続き重要です。言葉で表されることで、五感を使った食べ方が身についていきます。
それでは実際保育園ではどのような取り組みがなされているのでしょうか?筆者の経験も踏まえて、いくつか具体的な例を紹介します。
なんと給食をバイキング形式にしている保育園も!一人ひとりが自分の食べられる量を見極めて、自分でよそいます。クラスや学年が違う子どもたちが同じ場所で食事をし、「今日はここで食べよう」「ここ空いてるよ!」と声を掛け合いながら自然と食事が始まるのだそう。
自分の頭で考えて行動できるようにとのねらいでスタートしたこの食育は、子どもたちにとっても楽しい時間になっているようです。
秋のイベントの定番といえば、さつまいも掘り!自分たちで掘ってきたお芋がその日のおやつとして登場することで、おやつをより自分ごととして捉えられます。
さっきまでツルを伸ばして土の下にいたさつま芋。掘って洗ってふかして食べるその過程を通して、食材が口に入るまでの流れを学ぶことができます。
たくさんの子どもたちが同時に食事をする保育園では、割れにくく、洗いやすいことからプラスチック製の食器を使うのが一般的かもしれませんが、木製の器にこだわる園も。木の持つ温もりや木目の感触を通じて、鋭い感性を磨くことを目的としています。
「子ども向け」ではなく、「本物」に普段から触れ続けることで、食器や道具を丁寧に扱う姿勢が自然と身についていくはずです。
主食、主菜、副菜をバランスよく食べすすめていく三角食べ。一つのおかずに集中して食べがちな子どもにとって、バランスを考えるという気づきになります。月に一度、「三角食べの日」を設けている園では、給食の前に先生がイラストを用いながら声がけをします。
「ごはんばっかり食べちゃってるよ」と子ども同士で声かけするなど、コミュニケーションのきっかけにもなります。
お手伝いが楽しい3歳以降の子ども向けに、夕方の時間を利用して、おやこで簡単なおかずやデザート作りの企画をする園もあります。給食の人気メニューや旬の食材を使ったメニューなど、おやこで食に関して話すきっかけにもなりますよね。
なんと鮭を丸ごと1本購入し、園児の前で解体する園も!お腹の中にはいくらも入っているそう。解体した鮭はもちろん給食のメニューになって登場!まさに「命をいただく体験」ができます。家ではなかなか体験できない経験は貴重ですね。
食育で学んだことは、子どもの習慣として身についてこそ。そのためには保育園と家庭が連携して進めることが大切です。家庭で食育を活かすアイデアをここではご紹介します。
保育園で行う配膳や後片付けを「保育園だから」としては、もったいない!ぜひおうちでも取り入れてみてください。「ご飯は右、汁物は左」など、大人にとっては当たり前のことでも子どもは繰り返すことでそれらを身につけていきます。
家では食べない食材も、保育園では食べるということは、保育園に通う子どもを持つママ・パパには“あるある”かもしれません。そんな時はどんな献立で食べたのか?どんな声がけをしたのかを保育園に聞いてみるのも手です。
保育園の雰囲気による部分もあれば、調理方法(柔らかく煮る、細かくカットするなど)が子どもに合っているという可能性も。
自分たちだけでは気づかなかったアイデアに出会えるかもしれません。
保育園での給食は決まった時間に食べるリズムができています。食事を習慣化することは、子どもが成長し自立した後の食生活にもプラスの影響を与えます。また3食欠かさず食べる意識を持つことで、生活全体のリズムも整います。
一年中大抵の食材が手に入る時代ですが、旬の食材を知ることで食と自然へのつながりが意識できます。いっしょにスーパーに足を運び、食材を選びながら今日は何を作るか考えることは、大切な食育の一環です。
調理も始めは「レタスをちぎる」「調味料を混ぜる」など簡単なものからでOK。いっしょに作った達成感と、自分で作った一皿への興味は、食事の時間をより関心あるものにしてくれるでしょう。
食べ終わった後に、その日の食事の感想を話し合うのもおすすめです。
その時に気をつけたいのが、「おいしかったね」と漠然としたものではなく、「じゃがいもがホクホクとしていたね。口に近づけた時に湯気といっしょに甘い香りがしたね」など具体的に話せると◎。表現を通じて、食事の楽しみ方を子どもたちが学んでくれるはずですよ。
食事にまつわるマナーはじつにさまざまありますよね。何度言ってもできない、やらない…と頭を悩ます種でもあるかもしれません。「いつか」と気長に、粘り強く伝え続けながら、子どもが気持ちを向けるタイミングを待つことも大切です。
「ママ・パパが大切に考えていることなんだ」と子どもに伝われば、きっと子どもも頑張って身につけてくれるでしょう。
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「食育」と言葉にすると、とても大変で難しいことのように思います。食事は毎日の繰り返しであり、うまくいかないと小さなことで落ち込んだりイライラしたりしてしまいますよね。
保育園では子どもが食を通じて元気な心と体を育めるようにと、さまざまな試みをしています。時に保育園を上手に頼りながら、ママ・パパも楽しく子どもと食卓を囲めたらすてきですね。ママ・パパが自分に心を向けてくれるごはんの時間が、子どもにとっては何よりの学びと豊かな食体験につながるはずです。
栄養士 砂糖さおり
栄養士として保育園や病院で働いた経験を活かしてライターとして活動しています。 保育園で子どもたちとご飯を食べるのが最高の癒しでした♪ 栄養、食材、子育てママ・パパさん向けコラムを中心に執筆中。
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