夫と子どものしつけや教育についての意見が合いません。 私が子どもに注意していると「そんなこといいじゃないか」と口を挟んできたりして、子どもを戸惑わせてしまいます。一方、かんしゃくを起こす子どもの話を私が冷静に聞こうとしているのに、横から強く怒鳴ってしまったりすることも。 これから成長したときにこの考えの違いがもっと大きくなりそうで不安です。どうするべきでしょうか。
子育ての方針や子育て観が夫婦で違っていると、どうしても夫婦間で言い合いや喧嘩が起こりやすくなり、夫婦関係がギクシャクすることも。
夫婦間で子育て観が違う場合はどうすればいいのでしょうか?
子どもの視点にも立ちながらお話したいと思います。
夫婦間での子育てに対する考え方の違いは、子どもが赤ちゃんの頃から出てきます。
以前、あるプロ野球選手の家庭で、取材中、奥さんがミルクを適温にしながら赤ちゃんに飲ませていると、「少々熱くても何でも飲めるようでないとダメ」と言う夫の声が聞こえました。
赤ちゃん時代からそんなに考え方が違っていれば、これから先、このご夫婦は大変だろうなと思ったものです。
子育ての考え方の違いは夫婦に軋轢(あつれき)を生じさせ、それが原因で夫婦関係自体がおかしくなってくることも少なくないようです。
夫婦で考え方が違っても、実際の子育てはどちらかの考え方で進んでいきます。そんなとき、自分の方針が無視された方は、悶々としながら子育てをしなければならず、ストレスも溜まっていきます。
相手のいないときにこっそり自分のやり方を実践する夫婦もいます。でも、そんな状態は夫婦にも子どもにもよくありませんよね。
しかし考えてみると、そもそも夫婦で子どもや子育てに対する考え方が同じなんて、不可能なことなのです。
「うちは夫婦合わせていますよ」という家庭でも、実は全然違った応対を子どもに対してしているものです。
例えば、「のびのび育てる」「子どもの意思を尊重する」など、共通の方針を普段から話し合っている夫婦がいたとします。
そんな夫婦でも、ママ(パパ)と一緒に出かけた時は、「それ触っちゃダメ」「そんな高い所に登らないで」など規制が多く、パパ(ママ)と一緒に行ったときは、何も言われず、やりたいことが何でもできる、ということが起こったりします。
つまり、どんなに子育ての方針を話し合っても、日常の細かいところでは全然違う対応をし、一緒にいたのがパパかママかで子どもも全然違う経験をしていることが多いのです。
パパとママとで方針ややり方が少々違っていても、当の子ども本人は何も気にしていないことが多いものです。
子どもは何でもありのままを受け止めるからです。
たとえば子どもが転んだときに、パパは「自分で起き上がらせる」、ママは「起こしてやる」と対応が違っても戸惑ったりしません。
なぜなら子どもは単に「ママは起こしてくれるけどパパは起こしてくれないんだ」と思うだけだからです。
それは例えば、会社でコピーのミスで上司にこっぴどく叱られたあと、違う先輩が「いいんだよ、気にしなくて」と言ってくれたときに似ています。
そんな時先輩方の、後輩の育て方の統一感の無さに戸惑ったりしませんよね。
ただ「いろんな先輩がいるんだな」と思うだけで、むしろ「自分を認めてくれる人もいる」と安心感を抱きませんか?
子どもも同じです。
夫婦で違った対応をし過ぎると確かに弊害もあります。
普段自分に対して優しい人には甘え、厳しい対応をする人には甘えないという風に、相手によって違う振る舞いをするようになることがあるのです。
でも、私はそれでもいいと思います。
私たち大人も、その人がそれまで自分にどう振る舞ったかで、その人への振る舞い方を変えているものです。
普段優しい人にはこちらも優しく、そうでない人にはそれなりの対応をしていますよね。
子どもも同じで、優しくすればするほど心が優しい子どもに育っていきます。
最近は、「子どもが小さいうちは思いっきり甘えさせるのがいい子育て」となっていますが、それはそういう理由からのようです。
一番の良策はやはり夫婦で話し合うことかもしれません。子育ての方針について話し合うときは、次の点に気を付けましょう。
相手の考え方が分かったなら、それを意識的に取り入れてみるのもひとつの方法です。
自分の考えが正しいとは限らず、それでうまく進むようになることもあるからです。何事もやってみなければわかりません。うまくいかなかったらいかなかったで、今度は堂々と自分の考えを主張できます。
「譲り合いの精神」は、まず先に自分が譲ることで相手にも出てくるものです。
多くの家庭では、子どもと一緒にいる時間は断然母親の方が多いので、普段の子育ては母親のやり方や考え方中心で進んでいるものです。
子どもの服選びやヘアスタイルなどはもちろん、好き嫌いを言った時にはどうするか、抱っこ!とせがんできた時はどうするかなどはいちいち相談せず、母親が勝手に自分の考えで対処しています。そういう意味では、意識的に父親の子ども観や子育て感を取り入れることで、やっとバランスが取れている状態になったと言えるかもしれません。
子育てに正解はないとよく言われます。確かにそうです。
でも私は、「正解はないが不正解はある」と思っています。虐待もどきの子育て、ネグレクト(放任)などがそれにあたります。そんな、誰が考えても「それはおかしい」という子育て法ではない限り、それぞれの夫婦で多少の考え方の違いがあったとしても私は両方とも正解だと思っています。
よく考えると、私たちの親も、決して同じ考えで子育てをしていなかったはずです。
それでも、私たちは普通に立派に育っていますよね。
それはそのまま、夫婦の間で少々ならば子育ての考え方に違いがあっても子どもはすくすく育つということかもしれません。
こどもコンサルタント 原坂 一郎
1956年、神戸市生まれ。関西大学社会学部卒業。神戸市内で23年間6か所の保育所勤務を経て、2004年「こどもコンサルタント」に。笑いと笑顔をキーワードに、子どもおよび子育てに関するさまざまな研究・執筆・講演を全国で展開。『読むだけで子育てがうんと楽しくなる本』(春陽堂)、『男の子のしつけに悩んだら読む本』(すばる舎)ほか著書多数。
Facebook:@IchiroHarasaka
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