昨シーズン、新型コロナウイルスの影響で流行がみられなかったインフルエンザ。その反動から今シーズンは流行も予想され、とくに子どもは注意が必要です。予防にはワクチン接種や手洗いなどが推奨されていますが、いざかかってしまった場合はどうしたらいいのでしょうか?
例年、多くのインフルエンザ患者を診ている小児科医の黒澤照喜先生にインフルエンザの予防方法に続いてお話を伺いました。
インフルエンザにはさまざまな症状がありますが、高熱が数日間続くのが典型的です。さらに頭痛・のどの痛み・関節痛・筋肉痛・倦怠感や発熱に伴って体の各所が痛みます。子どもの場合には、だるくなってぐったりすることもあります。
ウイルスの型によって症状は違うのでしょうか?
インフルエンザウイルスのA型では、せき・鼻水・痰が目立ちますが、発熱してしばらくしてから症状が出ることが多いのが特徴。小さい子では知らぬ間に中耳炎になってしまったり、人によっては喘息発作が起きることもあるので注意します。
「けいれん(熱性けいれん)」や「せん妄(もう)」もインフルエンザAで起こることが多いですね。
一方、A型の流行に遅れて広がるインフルエンザB型では、嘔吐・腹痛・下痢など、消化器症状が出ることがあります。胃腸炎だと思ったらインフルエンザが検出されるということもあります。
どの型でも、発症直後(発熱直後)には迅速検査で陽性とならないことがあります。これは鼻やのどでまだ十分にウイルスが増えおらず検出できないためです。半日程度で検出率が上昇するため、検査に適した時間になるまでしばらく待つことも大切です。
インフルエンザのけいれんやせん妄について教えてください
けいれんは数分以内に止まることが多いですが、ほかの感染症と違ってインフルエンザによるけいれんは小学生でも起きることがあります。
「せん妄」は特に夜間に何かにおびえたり暴れ出したりしますが、20~30分程度で収まることがほとんどです。 ただし小学校高学年以上ぐらいの子はまれにせん妄によって、飛び降り、飛び出しなどが起きることがあります。2階建ての家なら1階で寝かせる、目を離さないようにするなど、注意しましょう。
けいれんやせん妄はその様子から、心配になります。熱が原因で起きるのでしょうか?
インフルエンザによるけいれんやせん妄は、熱によって起こされるものではなく、ウイルスそのものが原因で起きると考えられています。
インフルエンザウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、突発性発疹の原因ウイルスなどは神経親和性が高いといって、神経症状を起こしやすいウイルスなのです。
けいれんでは救急車を呼んでもいいのでしょうか?
せん妄やけいれんなど、親が初めてみる症状だったり直感で「おかしい」と感じる、家庭で見ていられない場合には、救急車を呼んでいいと思います。
これは最近問題になっている「救急車をタクシー代わり 」とは別物。搬送された結果、無事ならそれでいいし、次回の救急車要請の目安を小児科医が教えてくれると思いますよ。
インフルエンザ脳症はワクチンで防げるのでしょうか?
インフルエンザ脳症は、けいれんが止まらない・意識障害が続くなどで発症し、命に関わったり後遺症を残したりするため、ニュースになりやすく心配する親御さんも多いでしょう。
ただしインフルエンザにかかった子どもの中でもインフルエンザ脳症を発症するのは、1万分の1以下の確率で、数としても全国で年間に数十人と非常に少ないんです。
このように母数が少ないため、ワクチンが脳症を予防できるかははっきりとわかっていません。ただ体感としては、一定の効果があると感じている医師は多いのではないでしょうか。
けいれんやせん妄が起きるのは、インフルエンザ脳症を発症しているということですか?
じつはけいれんやせん妄が起きること=インフルエンザ脳症ではありません。
たしかにインフルエンザ脳症は発症当初にけいれんで始まることが多いですが、けいれんが止まらない、意識障害が続くなど異常があります。けいれんが起きた時点で、単なる熱性けいれんと脳症を区別するのは難しいので、受診して経過を追ってみることが大事です。
インフルエンザ脳症を発症する確率はせん妄やけいれんが起きるよりもずっと少ないですから、必要以上に心配しないことも大切。なお、タミフルなどの抗インフルエンザ薬が脳症を誘発するという意見も出ていましたが、現在では否定的とされています。
インフルエンザの治療ではどのような薬を使うのでしょうか?
インフルエンザと診断された場合、上記にあるような治療薬・対症薬が処方されることが多いでしょう。吸入薬は手軽ですが深呼吸ができないと難しく、小学生以上ぐらいにならないと効果が出にくいです。
幼児ではやはりタミフルを使うことがほとんどですが、インフルエンザは経過が長くなったとしても、最終的には治る病気。症状が軽い場合や治療薬が効く時期を過ぎてしまった場合などには、処方されないこともあります。
また、タミフルなどを投与することによって脳症を予防できたという明確な根拠はありません。
インフルエンザにかかったあとは、いつから登園していいのでしょうか?
インフルエンザは、学校安全保健法には「発症したあと 5 日を経過し、かつ、解熱した後 2 日(幼児にあっては 3 日)を経過するまで」と書かれています。なお、発熱した日は「0日目」、一日中平熱に戻った日が「解熱した日」となります。幼児の場合には、上記の表を参考にしてください。
「発症したあと5日を経過」とあるのは、治療薬によって熱が下がっても、まだ他人に感染させる例が見られるためにつけ加えられたものです。インフルエンザは微熱や熱が出ない場合もあり、俗に「隠れインフルエンザ」と呼ばれていますが、軽い症状でも人にうつすことがあるので注意したいですね。
そしてこの登園基準は、あくまでも他人に感染させないためのもの。せき・鼻水がかなりひどい、食欲や睡眠がまだいつも通りではない、なんとなく元気がない場合などは、しっかり休ませたほうが次の風邪にかかりづらくなります。
小児科医 黒澤 照喜
帝京大学医学部附属溝口病院勤務。小児科医。東京大学医学部卒業。同大学医学部附属病院小児科、都立小児総合医療センターなどを経て、2017年より現職。10歳・6歳・3歳の3人のお子さんのパパで、子育ての現実に沿った優しいアドバイスが魅力です。
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