「折れない心としなやかな頭」こそ、これからの時代を生きる子どもたちに必要なもの。
前回の記事では、わが子のさまざまな「できる!」を親は"あたりまえのこと"ととらえず、しっかりキャッチすること、それについての反応を子どもにしっかり伝えることが大切だとわかりました。
そんな親の元でなら、子どもは安心して自分の弱いところをさらけ出せるようになり、それが真の"強い心"へとつながっていきます。
今回のテーマは親がぜひ知っておきたい子どもの気になる面をプラスにとらえ直す手法「リフレーミング」について。教えてくださるのは、非認知能力研究の第一人者、岡山大学の中山芳一先生です。
Dさんは子どもの頃からとても引っ込み思案な女の子でした。それでも、高校生までは勉強も地道にコツコツできる方で、学校行事でも目立たないながらそつなくこなしていました。
しかし、その後大学へ進学したDさんにとって困ったことが起きてしまったのです。大学の授業に参加して必要な単位を取ることについては、特に問題なくこなしていたのですが、それ以外の活動…例えば部活動やアルバイト、ボランティア活動や留学など、自分で何かを見つけて積極的にチャレンジすることがDさんにはできませんでした。
これまでのように学校側から決められていたものなら、自動的に参加してきたDさん、しかし大学生になって自ら何かに挑戦しようとしたとき、どうしても「リスク」を考えてしまい尻込みしてしまうのです。
さて、大学3年生の後半になり、いよいよ就職活動を迎えたDさん。自分のことをPRしようにもPRすることが何もない。自分の強み、学生時代にがんばったこと…、彼女はPRすることがあまりにないことに困り果ててしまいます。
そして、Dさん自身もその原因が自分の引っ込み思案なところであることをよくわかっていました。
そんなDさんが、ある時大学のゼミで仲の良い友人にこのことを相談してみたそうです。そのとき、この友人が言ってくれた言葉が彼女自身を大きく変えることになったのです。
Dさん「私、ほんとに自己PRとか無理なんよ…。これといってチャレンジしてきたこととかもないし…。何かしたいと思っても、すぐにこうなったらどうしようとか考えちゃって。どうしても尻込みしちゃうんだよね…」
友人「そっかぁ…、でも、私にとっていつもDは一番の相談相手なんだよ!だって、Dに相談すれば何が危ないことか、何に気を付ければいいのか、教えてもらえるんだもん!」
この友人の発言に、Dさんは初めて自分の引っ込み思案なところを受け入れられることができただけでなく、自分の強みを知ることができました。
つまり、引っ込み思案なDさんは、実はいろんなリスクを思慮深く想定できるという強みを持っていたわけです。自分は「できていない」と思い込んでいたことが、じつは「できている」ことだったということですね。
先ほどのDさんのエピソードとよく似ているのが、天気予報での雨予報の伝え方ではないでしょうか。必ずと言っていいほどお天気キャスターさんは「今日は一日中あいにくの雨です」と発信します。
しかし、本当にあいにくの雨なんでしょうか?その瞬間、朝から今日が一日中雨であることを大喜びしている人もいるはずですよね。
つまり、一つの物事を一方向からしか見ることができない場合、それがマイナスの見方であればマイナスの物事にしかとらえられなくなってしまいます。そこで、思いっきりマイナスからプラスへひっくり返してとらえてみることも必要になってくるのです。
それが、先ほどのDさんであったり、一日中降っている雨であったりするのでしょう。
このように一つの物事をひっくり返してとらえ直すことを、専門用語で「リフレーミング」と呼んでいます。自分のとらえ方(フレーミング)をひっくり返す(Re:リ)という意味ですね。
さて、みなさんは普段からリフレーミングをされていますか?
お子さんのことも、ご自身のことも…ついついマイナスでとらえてしまっているわが子(ご自身)の性格や行動に対して、それをひっくり返してプラスにとらえ直すことができそうですか?
理屈では「そりゃそうだ」と思えても、実際にやってみることは難しいですよね。そこで、日常的にリフレーミングができるようになる3つのポイントをお伝えします。
まず、一つ目のポイントは「ひと呼吸おいて立ち止まること」です!
動いていると景色は次々と変わってしまい、じっくりと見ることはできません。
たとえば、わが子に対するかかわりでも、動き続けているときは「もっと〇〇しなさい」「またそんなことやって!」などと、いったんマイナスでとらえ始めるとそのままマイナスでとらえ続けるようになってしまいます。言い換えれば、わが子のダメなところばかりが見えがちになってしまうわけです。
そこで、ひと呼吸おいて感情を落ち着かせてみてください。そして、立ち止まってみましょう。立ち止まってみると、ご自身のことを客観的に見えるようになるはずです。そうすれば、マイナスなとらえ方に偏ってしまっているご自身に気づくことができるかもしれません。
次に、二つ目のポイントは、「ボキャブラリーを身に付けること」です!
たとえば、以下のような言葉を知っておいてください。
引っ込み思案(マイナス)⇔思慮深い(プラス)
融通が利かない(マイナス)⇔計画的(プラス)
感情的になりやすい(マイナス)⇔自分に素直(プラス)
八方美人(マイナス)⇔人当たりがよい(プラス)
厚かましい(マイナス)⇔積極的(プラス)
もちろんこの限りではありませんが、こうしてボキャブラリー(語彙)としてあらかじめ「マイナス(✕)⇔プラス(〇)」を知っておけば、ひっくり返すのがとてもスムーズに。このことが、私たちを大いに助けてくれますよ。
最後に、三つ目のポイントは「ほかの人の力を借りること」です!
先ほどのDさんのように、自分で自分のことをとらえ直すことは難しいかもしれません。また、お子さんのことをとらえ直すことも難しいかもしれないですね。
それは、なぜなら距離が近すぎるから。
たとえば、近くで何か一つの物を見てみてください。細かいところまで見られるかもしれませんが、それだけしか見ることができません。逆に離れてみてみるとこれまで見えなかったことまで見えてきます。
理屈としてはまったく同じです。しかし、この距離感を自分の中だけでコントロールするのは大変です。だから、違う距離感を持った人の力を借りるんです。
Dさんのように友人でもいいし、ママ(パパ)友でも、おじいちゃんやおばあちゃん、園や習い事の先生…身近でわが子を共有しているいろんな方とコミュニケーションをとってみてください。
ひょっとしたら、お子さんのお困りごとに対して、「そりゃぁ、お子さんは大物になりますよ~!」と言ってくれるかもしれませんよ!
岡山大学准教授 中山 芳一
1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。