これからの時代を生きる子どもたちに必要な「折れない心としなやかな頭」。それは子どもたちだけでなく、親である私たちにも必要なもの。人間関係、子育て、仕事…さまざまな場面でストレスを溜めすぎずうまくやっていくカギとなります。
そこで今回のテーマは"振り返り"について。
振り返ることで反省点や改善点が見えてくるものですが、強い心を作ることとどう関係があるのでしょうか。
岡山大学の中山芳一先生によると、前回の記事で紹介したリフレーミングのように、これまでのとらえ方をひっくり返すことができるような大切なことを、振り返りで見つけられることがあるといいます。
Eさんは、小学1年生の男の子の子育て真っ最中。保育園時代から輪をかけて"やんちゃ坊主"になってきたわが子に、しょっちゅう手を焼く日々が続いています。
保育園のときは素直に言うことを聞いてくれていたのですが、今は「もう、うるさいなぁ!」などと口ごたえされてしまうため、段々とEさんも子育てに自信をなくし始めていたそうです。
そんなある日のこと…Eさんのもとへお客さんがやって来ました。そして、そのお客さんは、Eさんのお子さんへお土産のお菓子を渡します。「食べてみる!」とそのお菓子を口にした彼は、しばらくして「ティッシュどこ?」と聞いてきたのだそうです。Eさんがティッシュペーパーを渡しながら「どうしたの?」と尋ねると、彼は「鼻かむから」とだけ答えて向こう側に行ってごそごそしてから戻ってきました。
お客さんが帰り、その日の夕ご飯の準備をしているときも、Eさんには何か違和感が残っていました。そして、頭の中であのときのことを振り返ります…。それでも、違和感をぬぐい去ることはできず、思い切って夕飯のときにお子さんへ聞いてみたのです。
「ねえねえ、さっき本当に鼻をかむためにティッシュを持って行ったの?」と尋ねるEさん。すると、お子さんからは「ちがうよ」と返事が返ってきます。Eさんの違和感が次第にハッキリしてきました。「ひょっとして、お菓子ポイしてきたの?」とさらに聞くと、彼はしばらく黙って「うん、(お菓子が)おもちだったから…」と答えました。
そうなると、どうしても「じゃあ、どうして『鼻かむから』って言ったの?」と尋ねたくなったEさん。彼はそんな問いに「だって(お客さんに)失礼だから!」とハッキリ答えてくれたそうです。
このやりとりから、Eさんはわが子の様子に違和感を持ったこと、そしてその後に振り返り、改めて彼とやりとりできたことの幸せをかみしめました。
あのときの違和感をそのまま素通りしていたら、振り返らなかったら、やりとりしなかったら…彼のステキな部分を発見できなかったからです。
この経験によりEさんは自分の子育ては間違っていなかったと自信を取り戻し、折れそうだった心を強くすることができました。
私たちは、ついつい日々の忙しさに流されてしまい、立ち止まって考えることや振り返ることが難しくなっています。そんな余裕があるぐらいなら、ほかにやることがあって、前に進めなきゃいけないことがある…どうしてもそんな風に考えてしまいがちです。
しかし、先ほどのEさんのように、その時には気づかなかったこと、その時には何となく感じていたことも、振り返ってみれば見つけられるかもしれないのです。
ともすれば、自分のこれまでのとらえ方を180度ひっくり返してくれるような、わが子のステキな場面を発見できることも。
私たちはどうしても「振り返る」という言葉にあまり良いイメージを持ちません。過去を振り返って、反省や後悔をしてしまう…折れそうな心をさらに傷つけてしまいそうな印象さえあります。
でも、考えてみてください!
反省は必ずしも後悔だけを生み出すものではありません。私たちは、反省することで「あのときはあんな気持ちだったかもしれない」とか「もっとこんな方法もあるんじゃないかな」などと新しい気づきや発見につなげていきます。
それは、決して自分を責めて心を傷つけるのではなく、むしろ折れそうな心に新しい栄養を与えて強くするのではないでしょうか。
つまり、強い心をつくるには、ついスルーしてしまった"自分が気付けなかったこと"を拾いに行く"振り返り"も大切なんです。
そんなグッドな振り返りなら、毎日のようにやってみたいと思いませんか?
それでは、グッドな振り返りをするための4つのステップを各ステップのポイントと例を交えて紹介していきますね。みなさんも、この手順で最近のことについて振り返ってみてください!
→ここで自分が振り返りたいお子さんとの出来事をそのまま思い出してみましょう!
例)この前、うちの子(4歳児)、私が何回注意してもソファの上を跳ね続けてたんだよな。
→その出来事についてあなたがどのように感じているのかを言葉にしてみましょう!
例)最近、何回注意しても聞いてくれないことが増えてるから、ほんとイライラしちゃう!
→このステップは、できるだけ考えられる理由や原因を考えてみてください!そのためにも、「私自身」と「お子さん」の両方について考えることをおススメします。
例)
私自身:最近、私も仕事が忙しくてイライラしがちかな…。だから、つい注意ばかりしちゃったり、しつこく注意しすぎたりしてしまってるかも…。
お子さん:あの子も私にもっとかまってほしいんだろうな…。だって、あの子、わざと私の目の前でわざと注意されるようなことをしてる気がする…。
→ステップ3で考えた理由や原因をふまえて、これから少しでもできることを考えてみてください!
例)これからもきっとイライラしてあの子に注意しちゃうだろうけど、しつこい注意だけは気を付けてみよう!あと、1回注意したら2回はほめてあげられるように「ほめポイント」も見つけていこう!
いかがでしたか?
特にステップ3→4は、最初は難しく感じられるかもしれません。しかし、このステップ3と4があるから、心折れそうなときだって、自分を責めて心傷つけるのではなく、新しい気づきによって心に栄養を与えることができるのです。ぜひ挑戦してみてください。
また、私たちはついついモヤモヤやイライラといったネガティブな出来事と感情を思い出しがちです。
先ほどのステップ1や2で思い出したことがそうであったとしても、そんな自分を責めないでくださいね。むしろ、モヤモヤやイライラによって、私たちは新しい気づきを得ることができるのです。だからこそ、ネガティブな出来事と感情を思い出して、振り返ろうとしているあなた自身をほめてあげてください!
岡山大学准教授 中山 芳一
1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。