入園や入学で新しい世界に踏み出した子どもたち。
わが子が集団生活の中に入っていくときに親が気になることのひとつが、自分の持ち物の管理ではないでしょうか。
とくに春は子どもたちが新しい環境に慣れていないこともあり、物を紛失したり、お友だちと取り違えたり…なども多いですよね。
子どもが自分の持ち物をしっかり管理できるようになるために、大人はどのようにサポートしたらよいのでしょうか。
園舎をもたず、自然保育を実践する「森のようちえん さんぽみち」の園長"のんたん"こと野澤俊索さんにお聞きします。
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春、新入園の季節になると、大きなリュックを背負った小さな子どもたちが森に通ってきます。これから毎日森に通うために、春は自分のことを自分でできるようにがんばる季節でもあります。
自然の中で生活することは、子どもたちにとって大きなチャレンジです。トイレやお弁当、荷物の準備やお片付けなど、ひとつひとつの生活を自分でできるようになると、そのたびに子どもたちは自信をつけて成長していきます。
こうした生活のひとつひとつを、成長の糧とするためには、時間をかけてゆっくりじっくりと子どもたちに向き合うことが大切です。
新しい自分のものを持つようになったときは、子どもがまず自分のものだと認識することが大切です。
そのため、名前をつけることは最も重要なことだといえます。名前を書くことで、自分だけではなく、周りの子もその子の持ち物を理解することができます。記号やマークではなく、名前を書くことで文字を認識するきっかけにもなります。
そして、どんな小さいものにも名前を書くことを忘れないようにしましょう。靴下、下着、お弁当箱やお箸、ゴムバンドやティッシュなど、記名していないものは一度手から離れると誰のものか分からなくなります。
自分でわかるかどうかだけではなく、周りの子が分かることでお互いのコミュニケーションが生まれ、友だちづくりのきっかけになったりもするのです。
子どもたちにとって、何かを頼まれたり、お手伝いしたりすることはとてもうれしいこと。
そして、子どもたちが好きなのは、そうして一生懸命やったことをあとで認めてもらうことです。「ありがとう」と言ってもらえたり、「できたね」と認めてもらえることがうれしい気持ちになって次の行動につながります。準備やお片付けも同じことです。
リュックサックに着替えやお弁当を入れるとき、子どもたちは一生懸命に詰め込んでなんとかチャックをしめようとします。そんな時はお家に帰ってリュックを開けると、中のものが飛び出すくらいぐちゃぐちゃになっていることも。
それでも「自分で入れてきたんだね!」と“自分でやった”ことをまず認めてあげると、子どもたちはとてもうれしい気持ちになります。
きれいに畳むとか、上手に入れるとかはまだ先のこと。”いま自分でやろうとしている”その気持ちを認めてあげることが大切なことです。どんな形であれ、「できたね」には間違いないのですから。
片付けも、準備も、はじめはゆっくりと時間をかけて一緒にやることが大切です。そしてやるべきことが分かってから、ひとりでやってみることです。
その時はやはり時間をたっぷり使って、じっくり待ち、見守るようにしましょう。はじめからうまくできないのは当然です。そこで不十分なところにはそっと大人が手を貸してやってください。
自分から動いてできたことに自信を持った子は、次のことにも前向きに取り組んでいき、いつの間にか手を貸さなくてもできるようになります。それが自立です。
忘れ物や落とし物については、時には「困る」経験をすることも必要です。なんでもすぐに助けてしまうと、子どもの行動の余地がなくなってしまいます。
困ったなあという気持ちをちゃんと味わうことも、次にしっかりと準備や管理をしようという動機につながります。その時は、叱るのではなく、「困ったね」と声をかけてその気持ちに寄り添ってあげたらいいと思います。
いつか花咲くその日まで、日々水をあげるようにゆっくりと楽しみをもって子どもたちと付き合っていくと良いと思います。
いま、時間をかけて丁寧に向き合うことで、子どもたちは驚くほど自立して行動するようになることができるのです。
森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索
NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。