思春期は、子どもが親から精神的に自立し「自分」という人間を確立していくためのとても大切な時期です。 親の言うことに反発したり、口数が減ったり、部屋にこもりがちになったりするのはその正常な発達の証でもあります。
しかし、親としては寂しく、どう関わればいいか戸惑う時期でもあります。 これまでのように、素直に気持ちを伝え合うことが難しくなる。
そんなとき、おやこの関係をかろうじて繋ぎ、支えてくれるのが幼児期にコツコツと貯めてきた「大好き」の貯金なのです。 目に見えないけれど、確かに存在する心の財産です。
この貯金は、お金では買うことのできない、日々のささやかな愛情の記憶でできています。 転んで泣いたときに「痛かったね」と寄り添ってくれたこと。
できたことを「すごいね!」と一緒に喜んでくれたこと。 理由もなく「ぎゅーっ」と抱きしめてくれた温もり。
「あなたのことが大好きだよ」と、何度もささやいてくれた言葉。 そして、何でもない日常の中で、一緒に笑い転げたたくさんの時間。
こうした「自分は無条件に愛されている」「受け入れられている」という記憶の積み重ねが、貯金の残高を増やしていきます。 それは、子どもの心の奥深くに「自分は大丈夫だ」という、揺るぎない自己肯定感を築いていくのです。
幼児期は、この「大好き」の貯金を面白いくらいに貯めることができるゴールデンタイムです。 子どもは、まだ素直に愛情を求め全身でそれを受け取ってくれます。
親からの「大好き」という言葉やハグを、何の照れもなく、スポンジのように吸収してくれます。 もちろん、日々の育児は大変なことの連続です。
食事、着替え、寝かしつけと、目まぐるしい忙しさの中で、愛情を伝える余裕さえないと感じる日もあるでしょう。 でも、この時期の親からの愛情表現は、子どもの心に豊かに蓄えられていくのです。
では、この貯金は思春期に具体的にどう役立つのでしょうか。 子どもが親に反発し、冷たい態度をとったとしても、心の奥底に「大好きの記憶」という貯金があれば関係が決定的に壊れるのを防ぐ、最後の砦となってくれます。
「今、親のことはうっとうしい。でも、自分のことを深く愛してくれているはずだ」という、根っこの部分での信頼が子どもを支えるのです。
そして、子どもが本当に困難に直面し、誰かの助けが必要になったとき。 この貯金は、「親に相談してみようか」という、ほんの少しの勇気を引き出してくれます。
「どうせわかってくれない」という壁を、ほんの少しだけ低くしてくれる。 その「ほんの少し」が、子どもを救うことだってあるのです。
未来のための貯金といっても、何か特別なことをする必要はありません。 大切なのは、日々の暮らしの中にある、小さな「入金」を続けることです。
「いってらっしゃい」のときの、ほんの数秒のハグ。 「おやすみなさい」のときの、「大好きだよ」の一言。
絵本を読みながら、膝の上で感じるぬくもり。 子どもが話すとりとめのない話を、ただ「うん、うん」と聞いてあげる時間。
完璧な親でなくても大丈夫です。 忙しい毎日の中で、こうした小さな愛情表現を意識して続けること。
それが、未来のおやこを助ける、何より確かな貯金となっていきます。

子育ては、長い道のりです。 今は目の前のことで精一杯かもしれませんが、子どもはあっという間に大きくなり、親の手を離れていきます。
幼児期の、無我夢中で、時にくたくたになるまで愛情を注いだ日々。 その一つひとつが決して無駄になることはありません。
あなたのその温かい関わりは、お子さんの心に「大好き」の貯金として、着実に積み立てられています。
ライター / 監修:でん吉(保育士)
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