もうすぐ楽しいクリスマス。プレゼントを心待ちにしている子も多いでしょう。この時期はワクワクする行事が多い反面、おもちゃの誤飲ややけどなど子どもの事故に気をつけたい時期でもあります。
そこで、実際に報告された子どもの事故事例と親が気をつけるべき点について、NITEで製品の安全性に関する試験方法や規格・基準を作る支援などに携わる鹿野歩子さんにお話をうかがいました。
ー子どもの事故はとても悲しいものですが、実際どのような事故が起こっているのでしょうか?
厚生労働省の調査によると、1〜4歳の死亡原因の第3位、5〜9歳では第2位が不慮の事故によるものです。不慮の事故のなかでも窒息や溺死・溺水が多く、転落が続きます(交通事故を除く)。
子どもの年齢別に詳しく見てみると、3歳までの死亡原因でもっとも多いのが不慮の窒息、続いて多いのが不慮の溺死・溺水です。4歳以上になると不慮の窒息の割合は減り、不慮の溺死・溺水の割合が多くなります。また3、4歳では転落事故も増加します。
不慮の事故による子どもの死亡数は、以前に比べると少なくなりつつあります。けれども子どもが亡くなってしまう悲しい事故は後を絶ちません。
ークリスマスシーズンや年末年始でとくに気をつけたいことはありますか?
まず冬はクリスマスやお正月などプレゼントをもらう機会がありますよね。子どもが新しいおもちゃで楽しく遊ぶ様子は、ほほえましいもの。しかしおもちゃで遊ぶ時間が増えるほど、誤飲による窒息事故や誤った使い方による事故に気をつけたいですね。
冬は家にいる時間が長いことから、やけどや転落による事故も多く報告されます。年末年始による帰省も事故原因になりがちです。とくに今冬は「今回こそは帰省を」と考える人もいるでしょう。
家具の配置や電化製品など、自宅では子どもの安全対策に気を配っていても、おじいちゃん・おばあちゃんの家はそうとは限りませんよね。帰省時はいつもより大人の数が多いことから、「誰か見ていてくれるだろう」との油断も起こりがちです。いつも以上に気を配ってほしいと思います。
ー「不慮の事故」といいますが、具体的にどんな事例があるのでしょうか?
実際に小児科医から報告された事故事例を挙げてみましょう。子どもは本当に大人が予想だにしない行動をとるもので、思わず目を疑う事例もあります。
ニュースで大々的に報じられた事例もあれば、大人にとっては「まさかそんな!」というケースもあります。そして事故の多くは大人がちょっと目を離したすきに起きています。
参考/日本小児科学会子どもの生活環境改善委員会 Injury Alert(傷害速報)
このような事故のうち、NITEに寄せられた事故情報については、必要に応じて製品の調査をしたり、新たな確認方法や基準を提案したりしています。
ークリスマス前におもちゃによる子どもの事故について知っておきたいのですが、実際にどのような事例が報告されていますか?命に関わる重大な事故事例もあると聞きます。
そうなんです、おもちゃによる事故には深刻な事例もあり、緊急手術を要するものもあるんです。
まず注意してほしいのが、おもちゃに使われるボタン電池や強力マグネットの誤飲です。ボタン電池を飲み込むと、食道や胃腸などの粘膜に深刻なダメージを与えます。
また最近はマグネットタイプのブロックおもちゃも人気ですよね。これもパーツが破損して内部の強力磁石が飛び出し、誤飲するケースがあります。ブロック自体は大きくても中の磁石はとても小さいんです。磁石をいくつか飲み込み、体内で胃腸壁をへだてて磁石同士がくっつき、内臓を傷つける事故がありました。
ー100均のおもちゃはとても人気ですが、対象年齢を守らず子どもに買い与えるケースも多いようです。これまでどのような事故報告があったのでしょう?
最近は100均のおもちゃもラインナップが充実していて、つい手に取る人も多いですよね。けれども、充実した楽しい100均のおもちゃでも、使い方や選び方によっては事故が起きないとはいいれきせん。
たとえば、100均のおもちゃによる重大な事故では、水で膨らむおもちゃによる事例があります。おもちゃはスポンジや樹脂製で、もとは直径1~2cmほどとサイズが小さいのですが、水に入れると大きく膨らみます。
事故の多くは小さい状態で飲み込み、体内で膨らんでしまったもの。樹脂製のボールは膨らむと直径4cmほどになるため、胃や腸をふさいで腸閉塞を引き起こすと開腹手術が必要になる場合もあります。スポンジ製のおもちゃが女の子の膣内から発見された事例もありました。
ーポリビニルアルコール製ビーズ玩具(水でくっつくビーズ)を耳や鼻に入れてケガする事故事例もあるそうですね。
耳や鼻に思わず入れてしまう…というのは幼児期の事故のよくあるケースです。実際に起こった事故では子どもがビーズを耳に入れてしまい、耳表面の水分でくっついて取れなくなりました。
ビーズの直径は約5mmととても小さいもの。耳の奥深くに挟まり、鼓膜に穴をあけてしまった事例もあります。同様にビーズを鼻に入れて取れなくなる事故も報告されました。
100均のおもちゃに特に事故が多いということではありません。おもちゃの中には、小さな子ども向けではないということが分かりにくいものや、安全性への配慮が不十分であるものも、残念ながら存在するということです。電池カバーがゆるみやすい、パーツが壊れやすいなどにもご注意ください。
ー実際に起こった事例を聞いてとても恐ろしくなりました。子どもの事故はどうすれば防げるのでしょう?
まず重要なのは、おもちゃの対象年齢を守ることです。対象年齢が実際より高いものは、小さい部品がある、ボタン電池を使っているなど、その子が安全に遊べない可能性があります。前述したビーズ玩具も対象年齢は6歳以上ですが、事故に遭った子のなかには6歳未満の子も多くいました。
また気をつけたいのが下のきょうだいです。おもちゃで遊ぶ本人は対象年齢を満たしていても、下の子が誤って手にし誤飲するケースもあります。 また、おもちゃやリモコンなどの電池カバーがちゃんとしまっているか確認することも大切です。
ただ、対象年齢を守っていても事故は起こることはあります。対象年齢はあくまで目安であり、子ども1人1人行動パターンは違うもの。まわりの大人はその子がどんなものに興味を示すのか、どんなイタズラをしがちなのかを見極め、油断せずしっかり見守ることが重要です。
ー安全・安心なおもちゃを見極める方法はありますか?おもちゃのパッケージにさまざまなマークを見かけますが、どのマークに注目すればいいでしょう?
まず、対象年齢を守ることを徹底してください。できればSTマーク・SGマークなどの認証がついているものを選びましょう。これらは、おもちゃを含む製品について安全基準を確認したことを示すもので、絶対に事故が起きないということの保障ではありませんが、リスクを下げる目安になります。 とくにST(Safety Toy)マークは、おもちゃの安全基準に特化したもの。STマークは誤飲をはじめとしたさまざまなテストを受けて認証されたものに表示されています。 (※詳細は、一般社団法人玩具協会にご確認ください)
SG(Safety Goods)マークは、おもちゃに特化した基準ではありませんが、万が一の際に賠償制度(事故が製品の欠陥によるものと判断された場合に、治療費等(人的損害)を賠償する制度。詳細は、一般財団法人製品安全協会にご確認ください)。哺乳瓶やベビーベッドなどおもちゃ以外の製品なら、SGマークとともにJIS(日本産業規格)マークにも注目しましょう。
また、最近はネット通販で海外のおもちゃを買う機会もありますよね。たとえばヨーロッパの安全基準を確認したことを示すマークに「CEマーク」があります。海外の安全基準は日本のものと微妙に異なりますが、安全性を見極めるポイントになります。
ーNITEでも子どもの事故を防ぐための規格を開発しているそうですね。
NITEは、子どもに配慮すべき製品の試験方法を提案し、これらが2021年と2022年にJIS(日本産業規格)になりました。
2021年のJISは、イスのすき間や柵などに、子どもの足や頭が挟まって抜けなくなってしまう事故が後を絶たないことから、それらを防ぐために開発したものです。
イスの背もたれのすき間などに子どもの体を想定した器具を使ってテストを行います。2022年のJISは、不用意に外れてはならない部品の外れやすさを確認するためのものです。外れた部品の誤飲などを防ぐためにつくられました。
メーカー各社の協力もあり今後、子ども向けの厳しい基準の規格をクリアした製品がこれから多く出回ることが期待されます。
またNITEのホームページでは、製品の安全性について注意喚起するYouTube動画を配信しています。子ども向けにゲーム要素を取り入れた内容もありますので、ぜひおやこでご覧になってみてください。
***
子どもの事故は、大人がちょっと目を離したすきに起こりがち。紹介した事故事例には全身麻酔で手術したケースも多く、最悪死亡事故につながってしまいます。
おもちゃの対象年齢をしっかり守る、安全性について確認されているおもちゃを選ぶ、カバーや柵、チャイルドロックで対策するなど、まわりの大人は安全対策を万全にしておきましょう。そのうえで子どもから目を離さず、しっかり見守ることが重要です。年末年始を笑顔で過ごせるよう、事故が起きる前にできることをしておきたいですね。
参考:
子供用おもちゃに関連する法規制等
(最新の情報は各法律等の規制当局などにご確認下さい)
独立行政法人製品評価技術基盤機構 製品安全センター 鹿野
NITE製品安全センターは、製品事故の調査を通じて事故の再発防止や未然防止を目指しています。高齢者や乳幼児などの製品事故を防ぐために、規格の開発や支援にも取り組んでいます。
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