うれしい、楽しい、悲しい、腹が立つ…たくさんの経験を通して、複雑な感情も持ち始めてくる幼児期。子どものさまざまな感情に、親としてはなんと声をかけてあげていいのかわからないというシーンもしばしば出てきますよね。
そんなときは、子どもの目線に経った、子どもの気持ちに寄り添うような絵本を、読み聞かせしてあげませんか? そんな想いをこめた、絵本や児童書に関する日本最大級の絵本ポータルサイト「絵本ナビ」の編集長・磯崎園子さんによる新連載「子どもの気持ちに寄り添う絵本」。
今回は「みんなができることが、自分だけうまくやれない」と悔しくて悲しくて落ち込んでいる子どもにむけての一冊です。
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鉄棒の逆上がり。
幼稚園のクラスのみんなはどんどんできるようになって、この間までできなかったたかしくんも今日できた!
でも、僕はどうしてもうまくできない。
お腹を鉄棒にひっつけてって言われても、すぐにだらーんと足が下がっちゃうんだ。
先生もみんなも頑張れ、頑張れって応援してくれるんだけど、くやしいし、なんでぼくってダメなんだろう…。
もう鉄棒なんて嫌いだ。ようちえんだって行きたくない…!
成長すると、少しずつできることできないことが出てきます。そして、自分ができないことに落ち込んだりします。悲しさ、くやしさとひと口には言えない嫌な思い。そんな気持ちがなんだか胸に残っていて、鉄棒は見たくないし、園にも行きたくなくなる。
そんな「苦手」の壁に初めてぶつかったときのわが子の気持ちに寄り添う絵本ありますか?
自分に出来ないことがある。まわりのみんなよりも不得意なことがある。そう気が付くのって、大人が思っているよりも案外早いもの。でも、それって、そんなに悪いことじゃない。
「ぼく、勉強は得意じゃないけど。
紙ひこうきは得意。」
「わたし、てつぼうは苦手。
でも、リボンは素敵にむすべるわ。」
この絵本に登場するのは、ぼくやわたしの色々な気持ち。おしゃべりが得意じゃなくても、野球はとんねるばかりでも。ひとまえで歌うのが恥ずかしくて、すぐバスに酔うけれど。……でも、得意なことだって色々ある。我慢できることや、楽々に出来ちゃうことだって。
どれもぼくで、どれもわたし。みんなは、なんだか生き生きして見える。それは、彼らが、自分らしくいられることの大切さを知っているからかもしれない。だから、慌てなくても大丈夫。
「出来なくて、くやしい。」
そんな風に思うことだって、もしかしたらきみの大事な長所なのかもしれないよね。
『ぼく・わたし』(作: 高畠 那生 絵本館)
まだおたまじゃくしのおっぽが残ったマルマくん。周りの子がみんなすいすい泳ぐのに、マルマくんだけ上手に泳げません。からかわれて泣いていたマルマくんに、がま先生は丁寧に教えながら心の中で思うのです……「ゆっくりだっていいんだよ」。本当に大切な事は、この時間の中に存在しているのかもしれませんよね。
『マルマくん かえるになる』(文: 片山 令子 銅版画: 広瀬 ひかり ブロンズ新社)
誰にでも好きなことがあれば、苦手なこともある。みんなの得意が違うからこそ、お互いに手伝ったり、励ましたり。そんな風にして、友達や家族、町の人たちとつながっていく。「ぼくの苦手なこと」って、思ったよりもずっと価値があるのかな。
『すきなこと にがてなこと』(作: 新井 洋行 絵: 嶽 まいこ くもん出版)
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こんな風に見てみると、不得意や苦手だってその子らしさ。親も不安に思ったり、焦る必要がないことに気づきますよね。自分とは全部ひっくるめてかけがえのない存在。そんなことを絵本を通しておやこで話せるといいですね。
「絵本ナビ」編集長 磯崎園子
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアでも「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)