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原坂さん教えて!おやこのお悩み相談室

「早く!」「急いで!」「何してるの!」毎朝言わずに"急ぐことの大切さ"を子どもに伝えるには

「早く!」「急いで!」「何してるの!」毎朝言わずに"急ぐことの大切さ"を子どもに伝えるには
ママやパパからの子育ての悩みに、こどもコンサルタントの原坂一郎さんが答える連載がスタート!今回のテーマは朝の支度について。忙しい朝、登園時間が迫っているのに子どもがなかなか動かなくてついイライラ…という経験はどの保護者にもある経験なのではないでしょうか。
目次

おやこのお悩みvol.1
子どもの支度が遅くて毎朝イライラしてしまいます

毎朝、時間がないのに、子どもは、朝食をだらだら食べたり、歯磨きをちっともしなかったり、着替えの途中で急に遊び始めていたり…
いつも「早く!」「急いで!」「何してるの!?」とイライラしながら、急かし続けています。
どうすれば子どもはスムーズに動いてくれるのでしょうか。

子どもは朝も"いつも通り"動いているだけ

幼児が大人のように急ぐことができない理由は、ただひとつ、「時間の感覚というものが備わっていないから」です。

大人は、たとえば時間が30分しかないのに「やるべきこと」がたくさんあるとき、普段とは違うスピードで動き、すべてをこなそうとします。
それは、30分という時間が、どのくらいの長さであるかを経験的に知っていて、急がないとすべてをこなせないことがわかっているからです。

一方、時間の感覚に乏しい子どもは、仮に「あと30分!」と言われても「あと100分」と言われても同じ。
動き方を調整しない、つまり、「いつも通り」に動いてしまうのです。

一方、「いつも通り」でないのが親です。
歯磨きも、朝食のセッティングも、普段なら時速40kmで動いているところを大人は朝は70kmくらいで動いています。
子どもは、朝もいつものスピードで動いているのに、早く動いている親は、子どもがずいぶん遅く動いているように見えてしまうのです。

そう、子どもはわざとゆっくり動いたりはしていないのです。

大人が、朝、急ぐ理由はただひとつ、「時間がない」からです。
急ぐ必要性を感じていない子どもは、いつも通りの速度で動いている、というわけです。
大人でも、仕事や用事のない日は、時速70kmで動いたりしませんよね。そうする必要がないからです。

でも、忙しい朝に、「いつも通り」動いてもらっては、確かに困りますよね。
何か急いでくれる方法はないでしょうか。

ありますよ~。それではいくつかご紹介しましょう。

子どもは自分の困ることには敏感で、動き方を調整できる

そもそも大人が時間がないときに急ぐのは、急がないと「困ること」が自分におこるからです。

その「困ること」とは、例えば朝なら、「朝食が食べられない」かもしれないし、「洗濯物を干せない」かもしれません。
究極の「困ること」は「電車に遅れる」「会社に遅刻する」でしょうか。

もしもそんなことが何も起こらないなら、誰も急がないはずです。

子どもも、急がないと自分の困ることや不利益がやってくるということがわかると、急ぐようになっていきます。

たとえばお気に入りのテレビが始まる直前にお風呂に誘うと、ゆっくり入っていると「テレビが見られない」という「困ること」が起きるので、素早く入り、すばやく上がろうとするはずです。

子どもは自分の「困ること」には敏感で、動き方を調整できるのです。

そうやって、「急がなかったばかりに困ることが起こった」という経験を重ねると、子どもは「急ぐ」ということを覚え、動き方が早くなっていくことが期待できます。

「急がなかったら困ることがおこる」経験をあえてさせてみる

どうすればいいかと言うと・・・

私のおすすめは、「困ること」をあえて経験させる、ということです。

たとえば、保育園や幼稚園を遅刻させるというのもひとつの方法です。
園に着いたときは、朝の集いや体操がもう始まっていた・・・そんな経験は子どもでも嫌なものです。
それをあえて経験させ、そうなった原因を、言葉で伝えるのです。
その際、おうちで急がなかったことを決して叱ったりせず、優しく同情するように言うのがポイントです。

急がなかったばかりに、楽しみにしていた映画の開始時間に遅れた、などでもかまいません。

親が子どもを急かすのは、可愛いわが子にそういう経験をさせたくないからですよね。でも、その優しさが仇(あだ)になっているとも言えます。

「困ったこと」の原因が、自分の動き方にあったとわかるようになると、「急ぐ」ことの大切さが、まさに「経験」としてわかってきます。

「急いだらいいことがおこる」経験も!

「急がないと困ることが起こる」という経験をさせるのもいいのですが、逆に「急いだらいいことが起こる」という経験を重ねることも大切です。
その「いいこと」の中で、子どもが一番うれしいのは、親にほめられることです。

どうやってほめるのかと言うと、朝のその忙しいときに、子どもが急いでやったとき、頑張ったときに、ほめるのです。

例えば、どんなにのんびりやさんの子どもでも、ママが「早く歯を磨きなさい」の言葉ですぐに磨く時や、食事を早く食べ終わってくれる時も必ずあるはずです。
そんなときに欠かさずほめるのです。
「うわあ、すぐに磨いた。えら~い」「早く食べられたねえ。ママ、嬉しいな」と。

普段、子どもがちゃんとやった時には何も言わず、しない時だけ叱る親というのは結構多いものですが、その逆、つまり「した時にほめる」のです。

子どもはほめられたことは繰り返す習慣があります。
次からも同じことをする確率は、叱ったときの何倍もアップしますよ。

急いだときに起こる「いいこと」は、ほめ言葉の他、ほっぺにチューでもいいし、ハグや抱っこでもOK。

お金も時間も労力も不要で、かつ子どもが大喜びする「いいこと」はたくさんあるものです。

早く!急いで!何してるの!は3大NGワード

一番よくない言葉がけは、「早く!」「急いで!」「何してるの!」の3つです。

親はそれで促したつもりになるかもしれませんが、子どもにとってはただ「叱られただけ」。
その言葉で、テキパキ動くようには決してならないのです。

どう伝えればいいかと言うと、してほしいことを具体的に言うのです。

例えば、食事の進み具合が遅いときは、「早く!」ではなく、「おかずが減ってないよ、大きなお口で食べようね」
服の着替えが遅いときは、「急いで!」ではなく、「はい、そこのズボンをはいて」と、すべきことを具体的に伝えると、子どもは案外その通りのことをします。

そしてその通りにやったときにかける言葉は、「言われなくてもしなさい!」ではなく、さっきのようなほめ言葉です。

取っ掛かりの遅さには「少しだけ手伝う」が効果的!

朝は、子どもの動くスピードが遅いことよりも、言っても食べない、着替えないなど、その取っ掛かりの遅さに悩んでいるご家庭は多いものです。

そんなときにおすすめなのが「おてつだい作戦」です。
すべてを一人でさせようとしないで、ポイントは「少しだけ手伝う」こと。

たとえば、 服を着る際はボタンを最初の2つだけかけてやる
ズボンをはくときは足首まで入れてやる
食事のときは「もう、赤ちゃんなんだから~」と言いながら、ひと口ふた口食べさせてやる
など、その取っ掛かりだけを手伝うのです。

子どもというのは「中途半端な状態」を嫌う傾向があるので、残りのボタンをあっというまに留めたり、そのズボンをサッと上げたりします。
決してそれで頼りグセがついたりはしないどころか、「やっぱりママは優しいな」という気持ちが募り、そのうれしさでかえって頑張る気持ちが出てきたりしますよ。

「親が手伝ってくれる」というのは、どんな子どもでも、自分が愛されている証拠だと思うので、親子の信頼関係の構築にもとてもいいものです。

どんなときでも、大人には大人の事情があるように、子どもには子どもの事情があります。
人は、自分の事情がわかってもらえたとき、初めてその人の言うことにも耳を傾けようとします。

どんなに忙しい朝でも、子どもなりに抱えている「事情」を探り、それが見えるようになったとき、子どもの動きもきっと変わってきますよ。


でも、どうやら「急ぐ」というのは、毎日「時間」というものに追われながら生活をする大人だけが行なう悲しい行動かもしれません。

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執筆者

こどもコンサルタント 原坂 一郎

1956年、神戸市生まれ。関西大学社会学部卒業。神戸市内で23年間6か所の保育所勤務を経て、2004年「こどもコンサルタント」に。笑いと笑顔をキーワードに、子どもおよび子育てに関するさまざまな研究・執筆・講演を全国で展開。『読むだけで子育てがうんと楽しくなる本』(春陽堂)、『男の子のしつけに悩んだら読む本』(すばる舎)ほか著書多数。 Facebook:@IchiroHarasaka
http://harasaka.com/

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