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のんたんせんせいの自然エッセイ

社会性、忍耐力、感情をコントロールする力。子どもたちの非認知能力を育てる"見えない保育"

社会性、忍耐力、感情をコントロールする力。子どもたちの非認知能力を育てる"見えない保育"
「森のようちえん さんぽみち」(兵庫県西宮市)の園長の野澤俊索さんが綴る自然エッセイ。今回は園児たちの森での毎日を少しのぞき見。どのように楽しみ、経験を重ねているのでしょうか。
目次

"森のようちえん さんぽみち"は兵庫県西宮市甲山にあります。
さんぽみちは森を園舎として、雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も、子どもたちが毎日森へ通う"森のようちえん"です。
ここでは、社会性や忍耐力、感情をコントロールする力などの、いわゆる"非認知能力"が育つ"見えない保育"が行われています。

生も死も当たり前のようにそばにある

12月になり、森の空気は一段と冷たくなりました。まだ散り残る枯れ葉に透けるお日さまの光は、昼間なのに夕方のような寂しい色をしています。物悲しい空気もつかの間、もうすぐ厳しい冬がやってきて、春まで森は眠りにつくのです。

ある日の朝、来年の春に入園を控えた3歳の子がプレ保育でさんぽみちにやってきました。お母さんと離れて一人で森に行くのは初めてのこと。

しばらくすると大きな泣き声が森に響き始めました。

「おかあさん、さみしい!」 

空に向かって泣きあげる声は、まさに一点の曇りもない淋しさを叫んでいました。

こんな風にお母さんを思って泣くのは、子どもたちの特権なのではないでしょうか。こんな淋しさを素直に感じることができるのも、今だけのこと。
その淋しさにじっくりと向き合うように保育者は子どもに寄り添います。そして時間をかけて自分で泣き止むのを待ちました。

泣きながらふと一息ついて見渡すと、ドングリがたくさん落ちていて、「リスさんが運んで来たんじゃない?」なんて話をしていたら涙はすっとどこかへ行ってしまいました。

ちょうちょの広場と呼ぶところで遊んでいた時のこと。

「たいへんだ!たいへんだ!」と子どもたちが走ってきます。何事かと思ってドキドキして聞いてみると、「たぬきが死んでる。」とのこと。子どもたちはそこに群がって、食い入るように見つめていました。

森にはいつも命が溢れています。生も死もありふれています。
そこで子どもたちはこんな大きい動物の死も、いつもと同じように理解し、いつの間にか何事もなかったかのようにそれぞれの遊びに散っていきました。

またある時、カマキリが小さなカナヘビの赤ちゃんを食べているところに出くわしました。「かわいそう」と誰かがつぶやくと、子どもたちは「かわいそうじゃないよ。カマキリだって生きていくのに一生懸命なんだよ。」と口々に言いました。

どちらの感性も、それぞれの立場に立っていていい。そして生も死も当たり前のように触れ合えるこの自然という環境に感謝しました。

素晴らしい個性が集結してできた"おうち"

子どもたちが冒険の森と呼ぶところがあります。そこは整備されていない野性的な森です。年長の子どもたちとそんな森にずんずん入っていくと、少しだけ開けたところがあって、その日はそこで遊ぶことにしました。

長い枯れ枝を引っ張ってくる子や、木の実を集める子などいろいろでしたが、子どもたちはそのうち枯れ枝を組み合わせてお家を作り始めました。

屋根が組みあがったころ、入り口付近を飾り付ける子や、見つけた柿の実で”電球”をつける子、小さな枝で”はしご”をかける子やコケを敷き詰めて絨毯にする子など、それぞれの遊びが見事につなぎ合わさって、一つのお家になっていきました。

ひとりひとりの個性はこんなに違うけど、違うからこそ一つになれる。
自然の中で遊び育った子どもたちが、お互いにやりとりしながら作り上げたこのおうちは、自然の多様性と調和の世界を象徴するかのようでした。

"見えない保育"とは子どもたちの気持ちに関わることです。
そして子どもたちに寄り添う気持ちを持つことです。

見ていることや聞いていること、考えていることや悩んでいること。
子どもの目線で考え続けることは、見た目にはわからないことですが、それは確かに子どもを育てる場を生み出します。
それを多様性に富んだ自然の中で行うことで、より豊かな育ちの場を作り出すことができるのです。

子どもたちは"今"を生きています。
今しかできないことや、今しか感じられないことを、存分に経験したいのです。

大人になった時の"子ども時代の思い出"とは、今まさに目の前にあるこの光景のことです。
そこにいる子どもたちの目が生き生きと輝いているでしょうか。
いつも自問自答しながら、自然の中で子どもたちに向き合っています。




子どもの目線で考え、"今"にどう寄り添うべきか。それは、ふだんのおやこの時間でもっとも大切にしたいこと。
次回は、野澤さんの"子ども観"について綴っていただきます。


森のようちえんさんぽみち
https://morinoyouchien-sanpomichi.jimdofree.com/
NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟
http://morinoyouchien.org

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執筆者

森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索

NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。

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