大人だけでなく、子どももマスクをつけることが日常化したコロナ禍。これから迎える本格的な夏に向けて、9割の親が気になっているのが子どもの熱中症です。
日本小児科学会からも、マスクをつけていると、窒息の危険や熱中症のリスクが高まるとして、2歳未満の子どもへのマスク着用は気を付けるよう注意喚起が行われています。
では、3歳以上の子どもはどうしたらいいのでしょうか?子どもが嫌がったり、やはり熱中症が気になるという面もありつつ、コロナ感染は絶対に予防したい、マスクをつけていないと周りの目も気になる…と悩ましいことだらけですよね。
そんな3~6歳の子どものマスク着用について、親が気になることを小児科医の黒澤照喜先生に聞いてきました。
ー小児科学会からは2歳未満のマスク着用については、提言がありますが3歳以降はどうしたらいいでしょうか?
もちろん新型コロナウイルスなど、感染症予防のためにマスクをしたほうがいいのは大前提です。しかし話を聞いて理解し、我慢してマスクをつけられるようになるのは、小学生くらいかもしれません。
熱中症のリスクもありますし、子どもにとってのマスクは「つけられるならつける」程度の努力目標と考えていいでしょう。WHOでも5歳以下の子どもへのマスク着用は必ずしも必要でないとしています。
ー今年は新型コロナウイルスの変異株の流行もあったり、学校や園でのクラスターも発生していますがそれでいいのでしょうか?
今は変異株など、たしかに感染が心配ではあります。まだ分かっていないことも多いですが、新型コロナウイルスはRSウイルスやインフルエンザのように、子どもが流行の中心にはなっていません。
変異株についても、大人と比較して特に子供が感染しやすいという証拠は現時点で得られていないとされています。また、日本小児科学会によれば、変異株が子どもの重症化率を引き上げるという証拠もこれまでのところ得られていないとされています。
そのため、3歳以上であってもマスクはつけられればつけたいですが、熱中症のリスクを冒してまで無理させる必要はありません。まずは子どもに接する大人がしっかりマスクを着用することが大切です。
ー園では、マスクをしていく子とそうでない子がいたりしますがどちらがいいのでしょうか?
保育園や小学校に対しては、各省から新型コロナウイルス対策のマニュアルが出ています。保育園では、子ども一人一人の発達の状況を踏まえる必要があり、一律にマスクを着用することは求めていません。
保護者の希望などで着用する場合には、息苦しさを感じていないか十分に注意するよう保育士に求めています。幼稚園でも同様でしょう。
一方、小学校では「身体的距離が十分に取れないときはマスクを着用すべき」としながらも、活動や子どもの様子によって以下のように臨機応変に対応するよう指示しています。とくに夏季は熱中症へのリスクを優先させるように明記しています。
1)十分な身体的距離が確保できる場合は、マスクの着用は必要ありません。
2)気温・湿度や暑さ指数(WBGT)が高い日には、熱中症などの健康被害が発生するおそれがあるため、マスクを外してください。
3)体育の授業においては、マスクの着用は必要ありません。ただし、十分な身体的距離がとれない状況で、十分な呼吸ができなくなるリスクや熱中症になるリスクがない場合には、マスクを着用しましょう。
保育所等における新型コロナウイルスへの対応にかかる Q&A について(第十報)
学校における新型コロナウイルス感染症 に関する衛生管理マニュアル (2021.4.28 Ver.6)
ー我が子は小学校の体育でもマスクをつけているそうです。親元を離れているときに、体調不良をちゃんと伝えられるか心配です。
幼児期や小学校低学年の子どもは自分の体調不良を伝えるのが難しく、子どもは「なんかへん」「ねむい」などと訴えることがあります。
そういうときには「気持ち悪かったんだね」など、親が状況を代弁してあげることで、徐々に自分で体調不良を訴えられるようになってきます。今は先生方も熱中症のリスクを認識し、責任をもってみてくれていますからあまり気にする必要はないと思います。
ー公園の大型遊具などでは、子ども同士が密になっていると感じることも多いです。この場合はマスクをつけるべきですか?
もちろん3密やそれに似た状態では、マスクをつけたほうがいいという考え方はあります。一方で遊具で遊ぶということはそれだけ呼吸量が増え、また熱を産生するため熱中症も起こしやすくなります。したがって、私はマスクをつけないメリットのほうがより高くなると考えます。
もしマスクをつけるなら、いつも以上にお子さんの状態を把握して、調子が悪そうであればマスクを直ちに外して休ませるなどの対策をとってください。
ーサッカーなどの接触があるスポーツやバレエなどの室内の習い事でのマスク着用はどう考えたらいいですか?
学校の体育の授業に対する文部科学省のマニュアルが参考になります。マニュアルによれば、体育の授業におけるマスクの着用は必要ないが、地域の感染状況を踏まえて対策を講じることが必要、とあります。幼児はこれよりも制限が緩くなると考えていいと思います。
マスクがつけられないプールは、一般的に水質管理がされているため水を介してコロナウイルスの感染が起きることはほぼないと考えられます。ウイルスの飛沫は低温・低湿度で飛びやすいので、大声を出さなければそれほど気にする必要はありません。ただしプールの前後の着替えなどで密集しないように気をつけたいですね。
そうはいっても実際には、感染のリスクとマスクをつけるリスクを天秤にかけて、ケースバイケースで判断することが多いでしょう。大前提として、体調が悪いときは習い事は休ませることも大切ですね。
ー3歳以上であっても、マスクを子どもに無理に強制しなくていいとわかって少し安心しました。ただマスクをつけていないと、電車やバスなどの公共の場で肩身が狭いと感じることも…。
これはいろいろな状況があると思います。小児でマスクをつけない方が良いことを知らない人もいますし、高齢者であったり基礎疾患があるため、コロナにかかることを極端に恐れている人、公共交通機関の混み具合など様々です。
一方で、マスクの有無にかかわらず大きい幼児が大声を出しているのに、保護者はスマホに夢中で気にもしていない、などというパターンもあるかもしれません。
まずマスクをつけたり、注意できる年齢の子には静かにするように伝えるなどやれる対策はやりましょう。もし実際に注意された場合は、相手に迷惑をかけたことを謝りつつも、万全を期することができないことについて理解を求めていくのが現実でしょう。相手によっては車両を変えるなどの対応も必要になるかもしれませんね。
ー昨年よりもマスクが日常となった今年、熱中症以外にも注意すべき点はありますか?
一つはマスクの取り扱いです。マスクをつけるときは、しっかりと鼻まで覆うことが必要です。外すときには、マスクの表面には触れずに手洗いをしっかり行うことが大切です。
また、耳の後ろがただれてしまったり、口の周りにあせもが起きてしまう場合には、まずしっかりと洗浄・保湿などのスキンケアを行いましょう。それでも改善しなければ、マスクをつける時間を最低限にするなど、対応が必要です。
***
毎日のように子どもに「マスクをちゃんとつけて!」と注意している親御さんは多いのではないでしょうか? マスクがマナーのようになってしまっている今、黒澤先生は「マスクさえしていればOKという考え方もよくない」とのこと。
子どもたちが健やかに育っていくためにも、子どものマスク着用については大人たちがより柔軟に対応していってあげたいですね。
小児科医 黒澤 照喜
帝京大学医学部附属溝口病院勤務。小児科医。東京大学医学部卒業。同大学医学部附属病院小児科、都立小児総合医療センターなどを経て、2017年より現職。10歳・6歳・3歳の3人のお子さんのパパで、子育ての現実に沿った優しいアドバイスが魅力です。
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