2020年4月のコロナウイルス感染症対策の緊急事態宣言をうけ、私たちの生活は大きく様変わりしました。元気いっぱい、動き回る子どもたちにとっても、自宅で過ごす時間が増え、遊ぶ場所や運動する機会が減るなど、これまでと異なる生活が始まったことで、心配されたのが子どもたちの健康や体力への影響です。
子どもの活動量、体力や健康に関するさまざまな研究を行ない、子どもの発育・発達に役立つ研究成果を発信してきた順天堂大学の内藤教授の研究グループ。そして、ベビー用おむつ開発の基礎研究として、子どものすこやかな発育・発達と歩行の関係について研究を重ねてきた花王。両者が共同してその知見を活用し、緊急事態宣言が幼児の活動にどのような影響を与えたかについて、歩数計測を中心に調査し、分析しました。
今回、研究グループは、外出や遊びの場面において親との関わり合いが多い就学前の幼児(1~5才)に着目し、幼児とその保護者(母親)を対象に、緊急事態宣言により行動が限られた環境下での活動実態を調査。
幼児とその保護者に歩数計を装着してもらい、歩数計測とアンケート調査を実施することで、親子の活動実態やそこで生じている課題を速やかに把握し、“新しい生活様式”に対応した解決の糸口を探ることをめざしたものとなります。
調査期間中の幼児の一日あたり平均歩数は1~5才で6,938歩、3~5才では6,702歩。
3~5才の歩数の先行研究は豊富ですが、それらによると3~5才の歩数は幼稚園や保育園に通園する平日に多い傾向があり、平日の平均歩数は9,686~15,278歩、休日の平均歩数は8,238~11,207歩です.
しかし今回は、多くの幼児が期間中通園していなかったことから平日と休日の差はあまり見られませんでした。
さらに、3~5才の歩数は先行研究に対して約2~6割少なく、特に先行研究の平日と比較すると大幅減になっています。保護者へのアンケートでも「子どもが運動不足になっている」という回答は多く、その認識と一致する結果になっています。
一方、保護者の一日あたりの平均歩数は5,885歩でした。日常生活における歩数は、厚生労働省の国民健康・栄養調査(2018年、20~39才女性)では6,535歩、花王が行なった先行研究1)における1~5才の母親では7,363歩であり、その減少率は約1~2割にとどまっています。大人よりも子どもの方が、活動に対する影響を大きく受けたことが分かります。
調査期間中の歩数は外出の有無に影響されており、外出しないと1~2才では約3割減、3~5才では約4割減と大きな減少幅になっていました。これにより、3~5才だけでなく先行研究が乏しかった1~2才も含めて、外出が制限されることが歩数減の大きな要因になったことが推察されます。
外出していないときに保護者が幼児の活動を促す工夫をすると、幼児の歩数が増える傾向がありました。具体的には次のような声が挙がっており、外出しづらいときに減少しがちな活動量を少しでも取り戻すためのヒントになるでしょう。
この結果をうけて、コロナ禍で子どもの活動量をどう維持していくかについて順天堂大学の研究グループから以下の提言がありました。
「今回の調査によって、緊急事態宣言期間中に幼児の歩数が少なかったこと、外出自粛による活動制限が幼児に対する影響だけでなく、保護者(母親)の悩みやストレスを増加させていることが分かりました。
その一方で、外出自粛中であっても、年齢にかかわらず保護者が子どもと積極的に関わったり、家庭で様々な工夫を行ったりすることが幼児の歩数を増加させている様子もうかがえました。
緊急事態宣言の解除後も不要不急の外出自粛が呼びかけられる中、日常の行動が制限される日々が今もなお続いています。運動不足による健康問題は、成人・高齢者のみならず、特に心身の発育・発達が著しい幼児においても危惧されます。
しかし、今回の調査結果から、いずれの年齢においても、感染に気をつけながら体を動かす工夫をしたり、外出をするだけでも活動量(歩数)の低下は抑制できることが示されました。
また、これまでの多くの研究から、活動量は平日の方が休日に比べて多い傾向にあることが示されています。多くの幼稚園・保育園が再開している現在、これらに通園している子どもたちの活動量は元の状態に戻りつつあると考えられるため、保護者が子どもの活動量確保のために過剰な心配をする必要はないと思います。
また、今回の調査結果から、幼稚園・保育園に通園していない1~2才に関しても、感染に気をつけながら親子で散歩や体を動かす遊びなどを一緒にすることで、活動量を増やせることが期待できます。
その反面、人がたくさん集まる場所ではソーシャルディスタンスを保つことが推奨され、この状況は今後もしばらく続くことが予想されますが、このことは幼少期に必要な多様な経験の機会を奪ってしまう可能性があります。
同じ年頃の子ども同士の関わり合いや集団遊びの中で子どもたちは様々なことを学びながら成長していきますが、運動という観点では、量に加えて質も大切であり、ソーシャルディスタンスという制約によって動きの多様性を培う機会が失われてしまうことが危惧されます。
基本的な運動動作として、①体を移動させるような動作、②バランスをとるような動作、③物を持ったり、道具を使って操作したりするような動作の3つの要素を意識することで動きの多様性は確保されます。
「だるまさんが転んだ」は少しルールを工夫すれば、ソーシャルディスタンスを確保した集団遊びになります。また、「王様だるまさんが転んだ」といってオニの指示(だるまさんがジャンプした、かかしになったなど)の通り動く遊びにすると動きの多様性が増します。このような様々な運動遊びの例が日本スポーツ協会アクティブ・チャイルド・プログラムのホームページで具体的に紹介されています。
この他に家庭内でもできることがあります。ご家族を木に見立てた木登り遊び、体でトンネルを作って子どもがくぐる遊び、そしてぬいぐるみを部屋のどこかに隠して子どもが探す宝探し遊びなど、親子でできる運動遊びは、子どもだけでなく、親のストレス解消にも役立つかもしれません。なお、スポーツ庁の「子供の運動あそび応援サイト」には、家庭でも楽しく行えるスポーツや運動を紹介している情報がまとめられています。是非、ご活用ください。
新しい生活様式の中では、自宅にいながら親同士がインターネットを介して子ども同士をつなげて遊ぶということも当たり前になるかもしれません。
現状に悲観することなく、楽しく子どもの発育・発達を促す日常のしかけをみんなで考え、そしてシェアしましょう。Stay Active! Stay Positive!」
いかがでしたか? 大人ですら運動不足を実感するこのコロナ禍で、子どもたちはどうしても運動不足になったり、ストレスがたまったりしがちですね。そんな中、どんなふうにカバーするのかが腕の見せどころ。順天堂大学グループの提言や下記のサイトも参考にして、ぜひすこやかな時間をすごしたいものですね。
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