保育士・心理カウンセラー・モンテッソーリ教師の資格を持ち、幼稚園・保育園・スクールなどで28年間、2万人以上の子どもたちと関わってきた伊藤美佳さんの著書『マンガでよくわかる モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』(かんき出版)。
2020年2月に発売された本書は、2018年に出版された『モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』(伊藤美佳著/かんき出版)を読みやすくマンガにしたもの。現在も育児書ランキングのトップに入っているベストセラーです。
プロ棋士の藤井聡太さんが受けていたことで話題になった「モンテッソーリ教育」と、人にはIQ以外のさまざまな能力があることを提唱した「ハーバード式」を組み合わせた独自の「輝きメソッド」を、実例マンガを交えながらわかりやすく紹介しています。
目下はじめての子育てに奮闘中の私は、真面目で融通のきかない性格が災いしてか、子どもの行動に「なんでできないの!」とイライラすることが多く、イライラしてしまう自分にもまたイライラ……とすっきりしない日々。
それでも「自分はできる」と思い込んで育児書の類には手を出していませんでした。そうしてズルズルとイライラと後悔を繰り返すうちに、子育ての「教科書」のような存在が欲しくなり、聞き覚えのある「モンテッソーリ教育」のワードを頼りにこの本にたどり着いたのです。
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本書ではまず、親にとっては「困った行動」である子どもの行動のヒミツについて解説されています。物を散らかす、食べ物を投げるなどの「困った行動」ですが、子どもはただ今やりたいことを素直にやっているだけで、じつは子どもが自分の能力を伸ばそうとしているサインなんだそう。
ですから子どもの「これがやりたい!」に気づき、やさしく見守ってあげられる方法を見つけて、許せる範囲で自由に遊ばせてあげることが大切だと著者は言います。
たとえば、床に絵を描いてしまうなら、床一面に大きな紙を敷いてあげる。おもちゃを全部出して散らかしてしまうなら、おもちゃを出していい範囲やお片づけの約束をして、あとは思う存分自由に遊ばせてあげる。
しかし、子どもがやりたいことを存分に、と聞くと「ワガママな子になってしまうのでは?」と心配になりますよね。心配ご無用、親に好きなことをやらせてもらえた子は親を信頼するようになり、安心して集中力が増しどんどん能力を伸ばしていくんだそう。また、親は我慢しなければいけないというわけではなく、やってほしくないことをあらかじめ伝えておくことも大切なんだとか。
わが家の1歳半の娘は、歩くスピードが上がりどんどん視野や興味が広がっている最中。親の目を盗んでキッチンの戸棚を開けては食器を出そうとしたり、調味料の小瓶を片っ端から出して散らかしたりとイタズラに余念がない…と思っていましたが、これってイタズラではなかったのかな?とハッとしました。
思えば娘はいつも私が家事をする姿を見ているので、私のまねをして遊んでいるのかも。もしくは、戸棚を開けると見えなかった空間や中に入っているものが現れるのがおもしろく、何度も開け閉めして楽しんでいるのかもしれません。
試しに触ってもいいふたつきの箱を渡してみると、自分で中にものを入れたり出したり、ふたを閉めて振ってみたりとまるで「実験」をしているかのように集中し、未知の箱に対してさまざまなアプローチをしている様子がわかりました。
この子の中には「いま、これをしたい」という欲求があふれているだけで、私を困らせたくてやっているわけじゃないんだ!と思うと、自然とおおらかに見守れる気持ちになれたのです。
著者がモンテッソーリ教育とともに重視しているのが、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱している「多重知能理論」。人間には8つの知能があり、人によってある知能が高かったり低かったりするという考え方です。これを著者が日本人向けにアレンジしたものが「9つの知能」です。
9つの知能とは、運動能力につながる「体」の知能、学力を養う「言葉・数・絵」の知能、感性を磨く「音楽・感覚・自然」の知能、社会性につながる「人・自分」の知能で構成されているのだそう。この9つの知能を、子どもの行動を見るときに意識すると、「なんでできないの!」とイライラしてしまうような子どもの行動もじつは「〇〇の知能を伸ばしているんだ!」ととらえることができるようになるというのです。そんな風に考えられると、何より親自身が楽になりますよね。
たとえば、娘が高いところに登りたがるのは「体」の知能を、スプーンを使わずに食べ物を手で触ってしまうのは「感覚」の知能を伸ばしているところなのかもしれません。大人は「この高さに登ったら危ない」とか「食べ物を手で触るとベトベトする」というようなことをすでに理解しています。でもこれって、はじめから知っていたわけではなく、今の娘のように小さな経験を積み重ねて得たものですよね。
理解できている状態が当たり前だから、上記のような娘の行動に対し「なんで?」「やめて!」と思ってしまうのです。が、9つの知能をベースに子どもの行動を見ると、「困った子」や「変わった子」と思われている子が「体の知能が高くエネルギーにあふれている子」「感覚の知能が高く多くのことを感じ取れる子」だった!と評価が一変することもあると著者は言います。
関わる大人の意識が変われば接し方も変わり、子どもはよりのびのびと自分の能力を伸ばしていける。今までの自分をいろいろと反省しつつ、これからはあらゆる娘の行動を前向きにとらえることができそうだなと感じました。
モンテッソーリ教育の基本的な考え方は「子どもは自らを成長させ、発達させる力を持って生まれてくる。大人である親や教師は、子どもの成長要求をくみ取り、自由を保証し、子どもたちの自発的な活動を援助する存在に徹しなければならない」というもの。
つまり、親が「子どもの能力を伸ばそう!」と関わると、「自分の頭で考え、自分で人生を選択できる子」になっていくだけでなく、子育てがぐんと楽しくなると著者は言います。
さらに「6歳までの育て方で未来が変わる」とし、各年齢で特に伸びる知能と、それらをさらに伸ばすために親はどんな接し方をすればいいかを解説してくれています。誰もがはじめての子育てで、しかも子どもの性質も環境も百人百様。子どもとの遊び方や接し方に迷ったときの道しるべになりそうです。
遊びが1日の大半を閉める子どもと生活していると、遊びのネタも尽き「こんなのでいいのかな?」と不安になることもあります。そんなときに「この年齢ならこういうのがいいよ」とヒントをもらえるだけで、ぐっと気持ちが楽になりました。
また、自分も含めて真面目な人ほど子育てを頑張りすぎたり、子どもに介入しすぎたりしているのではないかと改めて感じました。手を出したい、口を出したい気持ちをぐっとこらえ「この子は自分で伸びることができるんだ」と信じて待つ・見守ることも大切だと肝に命じて、子育てに励んでいこうと思います。そしてまた行き詰まったときのために、手元に置いておきたいと思う一冊でした。
『マンガでよくわかる モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』
著者:伊藤美佳
発行:かんき出版
定価:1,430円(税込)/Kindle(電子書籍)1,287円(税込)
【わたし的評価】
満足度 ★★★★☆
実践度 ★★★★★
読みやすさ ★★★★☆
わかりやすさ★★★★☆
ライター 西方 香澄
徳島で生まれ育ち、大学進学を機に神戸へ。養護教諭・児童発達支援など教育に従事したのち独学でライティングをはじめる。夫・1歳になった娘とクリエイティブな毎日をつくるため、現在デザインも勉強中。
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